野球のぼせもんBACK NUMBER
《引退》首脳陣批判のサファテに工藤監督は頭を下げた⋯日本在籍11年、福岡で愛された“キング・オブ・クローザー”の「漢気列伝」とは
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph bySankei Shimbun
posted2021/12/01 11:06
MLBでプレー後、広島、西武を経て2014年からソフトバンクにやってきたサファテ。2017年日本シリーズで見せた投球は、鳥肌が立つ“激投”だった
しかし、工藤監督も頭を下げた。
「こちらこそ申し訳ない。お前にそういうことを言わせてしまった。俺は反省している」
そういえば、工藤前監督は先頃の退任会見の中で、たくさんの思い出の一つにこの17年のV奪回を挙げていた。
「監督という仕事はえらいんじゃなくて、みんなと共にあるとの考えを、僕の中にしっかりと芽生えさせてくれた」
その言葉の中にはサファテと交えたやりとり、そこから出来上がっていった絆が含まれていたのだろう。
サファテが常勝ホークスのレガシーを築くうえで不可欠な存在だったか、ここに記した森や工藤前監督とのエピソードだけでも分かる。
V奪回後に言った「先は長くない野球人生だよ」
話が逸れてしまったが、件の17年日本シリーズ第6戦は、円陣を組んだ直後の11回の攻撃で決着がついた。ホークスが川島慶三のヒットでサヨナラ勝ち。2年ぶりとなる日本一に輝いたのだった。3回無失点のサファテは勝ち投手となり、シリーズ1勝2セーブ、防御率0.00で見事MVPに輝いた。
試合後、深夜の取材。
「2014年、2015年も日本一になったけど、忘れられない日本一になる」
そんな熱い言葉を口にしたかと思えば、サファテはこんな風にさらっと言った。
「もう先は長くない野球人生だよ」
この時36歳。本気とも冗談ともつかない表情だったが、炎の3イニング、計36球の熱投を見た直後だったから後者なのだろうと筆者は勝手に決めつけていた。おそらく球団もそれを疑わなかったから翌18年3月の段階で、異例ともいえる19年以降の契約を早々に結んだのだろう。3年契約で出来高を含む総額20億円超の好条件だった。
しかし、不安は現実となった。
新しい契約書にサインを交わして間もない18年4月、サファテの体がついに悲鳴を上げた。股関節に痛みを訴えて戦線離脱。米国に戻りすぐに手術を受けた。
股関節は、投手にとって上半身と下半身のバランスを保ち、連動性を生む“軸”となる部分だ。それが壊れてしまえばどうなってしまうか。故障をしてしまった時点で、正直、想像に難くなかった。かすかな望みを信じ、懸命なリハビリを経て19年、20年のオープン戦ではマウンドには上がったが、状態が再び悪化。昨年8月には人工股関節置換術を受けていた。