一方、仕掛けた砂辺はこんなことを考えていた。

「やっていて面白くないと思っていたんですよ。俺がやりたかったのはこれじゃない。最後の30秒の、ああいうこと（打ち合い）がやりたかった」

　一瞬で試合が決まりそうな激しい打ち合いもあれば、ポジションの取り合いで終始もつれた総合格闘技ならではのスクランブルもあった。ふたりが織りなす攻防は、まさに破壊と創造だった。砂辺は言う。

「俺が見せたかったのはネチネチした試合じゃない。当たったら一発で倒れる。そういうヒリヒリしたものをひとりでも多くの人に伝えたかった」

「総合格闘技をやり続けてよかった」

　判定は3－0で前田。故郷での“凱旋マッチ”を勝利で飾ることはできなかった砂辺だが、敗因を聞かれると、言い訳はしなかった。

「俺が弱かった。それだけです」

　さらに「沖縄の大将としてもダメだった」とうなだれた。その一方で、こうも口にした。

「でも、沖縄の選手はメチャクチャ頑張っていましたよね。沖縄にもいい選手はいっぱいいるので、どんどんRIZINに出してほしい」

　地元でRIZINという格闘技のビッグイベントが開催されたことについて水を向けられると、砂辺は「20年総合格闘技をやってきて紆余曲折はあったけど、やり続けてよかった」と切り出した。

「この大会で、今まで自分を知らなかった人にもたくさん知ってもらうことができたと思う。沖縄でも、ボクシング以外で輝いている奴はいっぱいいるんだぞ、ということを伝えることはできたと思います」

砂辺が主宰するジムに掲出された『RIZIN.32』のポスター。写真はトレーナーを務めるキックボクサーの田嶋はるさん（元WPMF世界ミニフライ級王者）　©Koji Fuse 

　試合には負けたが、砂辺は愛されている。大会前日、砂辺は一般のジム生から初めて「出場祝」を贈られた。そして大会当日には、沖縄で自ら主宰するジム『reversaL Gym OKINAWA CROSS×LINE』の教え子やレスリングをはじめとする関係者が何百名も駆けつけた。格闘技をやる以上、強さを追い求めることは不可欠な要素だが、愛はもっと大切だ。

　かつて体重が50kgに満たなかったガリガリの少年は、諦めない気持ちで種を蒔き続け、故郷に総合格闘技という花を咲かせつつある。