「『チャンスは必ず来るから。今は我慢して、しっかり準備をしたほうがいい』と客観的に僕の立場を考えて、言ってくれました。ああやってブログに書いたのも、自分を一生懸命、盛り上げる意味もあったと思う。もちろんいい試合だったというのもあるけど、昔だったらこんなふうには書けなかったですよ」

　何とも言えない彼の表情が当時の葛藤の大きさを物語っていた。

　後半途中から出場した2戦目のオランダ戦ではゴールを奪えなかっただけに、次のチャンスを待っていた。

オランダ戦での玉田　©JMPA

　ラウンド16、パラグアイ戦。延長後半開始とともに、岡田武史監督から「点を獲ってこい」と送り出された。

　見せ場はやってきた。自らの突破からチャンスをつくり、ペナルティーエリア内に侵入して岡崎慎司からのパスを受けた。角度のない位置で相手GKにコースを消されていることを確認すると中央でフリーになっていた中村憲剛にパスを送った。しかし呼吸がうまく合わずに流れてしまう。

無表情のまま涙を流した。一人で、一点を見据えて

　昔の彼なら強引にでもシュートを打ったのかもしれない。だが確率を即座にはじき出して、パスを選択したのだ。つながらなかったものの、ケガとの闘いや自分の立場における葛藤、そしてワールドカップへの思いから生まれた誇りのパスであったように私には見えた。

　PK戦で日本の敗退が決まると、彼は無表情のまま涙を流していた。一人で、一点を見据えて、体を小刻みに震わせていた。

「何もできずに終わってしまったなという思いで、悔しさだけが残りました。自分は一体、何をするためにこの南アフリカにやって来たんだ、と。そう思うとつらかったですよ」

　次の言葉が出てくるまでに時間が掛かった。

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