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「3年間で165億円」驚愕オファーも? 米ゴルフ界とスター選手を揺るがす新ツアー構想…日本も“対岸の火事”ではない
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph byGetty Images
posted2021/11/09 06:00
新ツアーを立ち上げる「リブ・ゴルフ・インベストメント」のCEOに就任したグレッグ・ノーマン
ノーマン率いるリブ・ゴルフ・インベストメントの新ツアー構想は、もちろん、アジアツアーの取り込みが最終ゴールではない。「これは、ほんの始まりにすぎない」と鋭い目を光らせるノーマンの視線は、PGLともSGLとも呼ばれる大規模な新ツアーを立ち上げるビッグな構想に向けられている。
そして、彼が最終的に目指しているのは、おそらくPGAツアーに追いつき、追い越し、PGAツアーを凌駕する世界一のツアーに育て上げることなのだろう。
11月に入ると、ノーマンは2人のエグゼクティブを任命したことを発表した。
チーフ・イベント・オフィサーに就任したロン・クロス氏は、かつてPGAツアーやオーガスタ・ナショナルでイベント(大会)創設や開催に携わり、PGAツアーのツアー選手権や世界選手権(WGC)、プレジデンツカップなどを手掛けた実績がある。まさに「敵陣」であるPGAツアーの勝手を熟知している人物を陣営に取り込んだことになる。
チーフ・コマーシャル・オフィサーに就任したショーン・ブラッチェス氏は、米ESPN局で30年近いキャリアを積み上げてきた人物。TV界の興行ビジネスに長けており、カーレースのフォーミュラ1を活性化させた実績の持ち主だ。
振り返れば、90年代にノーマンがフレッド・カプルスやセベ・バレステロスらとともに打ち出したワールドツアーなる新構想は、当時のPGAツアー・コミッショナー、ティム・フィンチェム氏によって押し潰され、立ち消えになった。その後にPGAツアーが中心となって創設された世界選手権は「我々のアイディアだった」として、ノーマン側は怒りを露わにしていた。
そんな苦い経験があったせいだろう。今回は、すべてを水面下で秘密裡に推し進め、時期が来たら、1つ、また1つと仰天発表を行なうという具合に、同じ轍を踏まない心づもりで慎重に賢明に、しかし精力的に動いている。
選手たちへの打診も、やはり水面下で行なっているが、大金をオファーしながら強力に推し進めている様子だ。PGAツアーから新ツアーに乗り換えるなら、30~50ミリオン(約33~55億円)がオファーされており、「3年間で150ミリオン(約165億円)をオファーされている選手もいる」と、米メディアは報じている。
日本ツアーは活路を見出せる?
PGAツアーのスター選手が48名も新ツアーに移行してしまったら、PGAツアーの魅力は半減してしまうかもしれない。ツアーが2つに分かれてしまったら、ファンも、これから世界に挑もうとしている若きゴルファーたちも困惑することだろう。メジャー4大会やビッグ大会の存在意義や存在価値も変わってしまうかもしれない。
しかし、もしかしたら、新ツアーが造られることで、若い選手やこれから羽ばたこうとしている選手の戦う場と機会が増え、「ありがたい」「良かった」と感謝される未来が到来するかもしれない。
低迷している日本の男子ツアーは、今、こうした世界の波に飲みこまれてしまう危機に直面しているのかもしれないし、逆に、何らかの活路を見出すチャンスに巡り会っているのかもしれない。
だが、まず見て考えなければ、前へ進めない。だからこそ、日本のゴルフに携わるすべての人々は、今、世界で起こりつつある現状にしっかり目を向け、よく考え、良き答えを捻り出す必要がある。
今こそは、ゴルフ界の潮目の時期だ。