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ユナイテッド粉砕の陰のマン・オブ・ザ・マッチは“偽9番” クロップも絶賛するフィルミーノの「異常」なパフォーマンス
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2021/10/31 17:03
好調サラーの活躍に隠れがちだが、フィルミーノのパフォーマンスこそがリバプールの躍進を支えている
守備面での貢献度の高さを、試合後のユルゲン・クロップ監督が「異常」とまで言って称えたリバプールの背番号9が、この日最後に見せたプレーも果敢なプレッシングだった。右インサイドからのパスはカットされたが、フィルミーノは足を止めないばかりかルーズボールを拾ったルーク・ショーへ詰め寄る足取りを速め、ユナイテッドの左SBに横パスを強いた。
普段もフィルミーノが先陣を切るケースが多いリバプールのプレッシングは、クロップ体制下でのチーム戦術の基本として浸透している。
偽9番のフィルミーノを題材にした本が出る?
この日のピッチ上で、敵将のオーレ・グンナー・スールシャールが、攻撃では最も効果的であるはずのカウンターに主眼を置かず、何故か真っ向勝負を試みたユナイテッドの連動のない中途半端なプレッシングとは次元が違う。
相手のボールホールダーに対して、1人、2人、3人と次々にプレッシャーを仕掛ける。結局、ショーが無難に繋いだはずのボールは最終的にミスパスとなり、アレクサンダー・アーノルドがタッチの外へスライディングで蹴り出した。それは、また1つユナイテッドの攻撃が形になる前に消滅した瞬間だった。
フィルミーノが、スタンドのアウェー陣営からの拍手喝采に手を叩いてピッチを降りたのは76分。その直前まで「オーレよ、俺たちに手を振ってくれ!」と歌ってスールシャールをやり込めていたリバプール・サポーターたちが、気分は最高だったはずの“口撃”の手を休めてまで感謝と敬意を表わした背番号9の出来は、“マン・オブ・ザ・チーム”級のパフォーマンスだった。
リバプールの指揮官もキーマンに対する賞賛を忘れなかった。
「ボビー・フィルミーノが現役を退くときが来たら、きっと、偽9番としての彼を題材にした本が出回ることになるのだろう」(クロップ)
もっとも、ボビー流偽9番の何たるかに関しては、記録にも記憶にも残るユナイテッド粉砕後、最大のスポットライトを浴びたサラーの「エジプシャン・キング」に倣って、「フォルス9・キング」の称号が相応しいフィルミーノ自身が、すでにプレミアのピッチ上で才筆を振るっているのだが。