「だから巨人軍は澤村くんを指名しますよ」

　それが巨人が斎藤の指名を“断念”し、澤村指名へと方向転換していったターニングポイントだったのである。

　直後の10月8日にスポーツ報知が「巨人、澤村獲りへ」と報道してメディアを使った囲い込みを始めたのを見て、なぜ清武さんがわざわざ筆者を呼んで、あんな話をしたのかも理解できた。

斎藤佑樹は通算15勝26敗の成績に終わったが……

　秋のリーグ戦が終わった時点で、約束通りに澤村は巨人を“逆指名”。その効果があったのか、ドラフト会議では巨人が澤村を一本釣りでの指名に成功し、斎藤はヤクルト、日本ハム、ロッテ、ソフトバンクの4球団が競合の末に日本ハムが交渉権を獲得した。

　ちなみにこの年のドラフトの1番人気は斎藤のチームメイトの大石で横浜、楽天、広島、オリックス、阪神、西武の6球団が入札指名し、くじ引きの結果、西武が交渉権を獲得。中日はその年の8月のオープン戦で肩を痛めて秋季リーグ戦に登板できなかった大野を単独指名している。

　巨人の澤村単独指名には「ドラフト破り」などの批判もあったが、澤村は1年目のシーズンには先発で11勝、2年目も10勝と2年連続で2桁勝利を挙げ、その後は紆余曲折もあったがリリーバーとしても75セーブ（うちロッテで1セーブ）を記録して、今季からはボストン・レッドソックスで中継ぎとして活躍している。

　一方の斎藤は1年目に6勝6敗の成績で2年目には開幕投手を務め5勝を挙げたが、その後は故障に悩まされたこともあり、通算15勝26敗の成績でこの2年間は一軍での登板もなかった。

　ただ、そんなある意味、期待外れの選手生活だったかもしれないが、11年間の現役生活を終えて引退を表明した斎藤に感じるのは、やはり特別な選手だったという思いだ。

　そしてスターは作られるものではなく、自然に生まれるものだということを、改めて痛切に感じたのである。

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