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落合博満のオレ流すぎる初陣《開幕投手・川崎憲次郎》に当事者たちは何を思ったのか?「誰にも言えない」「絶対に勝たなきゃ」 

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佐藤春佳

佐藤春佳Haruka Sato

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photograph byTamon Matsuzono

posted2021/10/11 11:00

落合博満のオレ流すぎる初陣《開幕投手・川崎憲次郎》に当事者たちは何を思ったのか?「誰にも言えない」「絶対に勝たなきゃ」<Number Web> photograph by Tamon Matsuzono

誰よりも「勝てる監督」だった落合博満。在任中は4回のリーグ優勝に加えて、8年連続でAクラスを維持した

鈴木 川崎さんはヤクルト時代、野村(克也)監督のもとでもプレーしました。人情味のある野村監督と落合監督は全く逆のイメージがありますが、どうでしたか。

川崎 オレは、ふたりは同じタイプだと思うんです。“見せ方”が違うだけ。ふたりとも確固たる野球観があって、ノムさんは言葉で伝える。練習を止めて2時間お説教とか普通でしたからね。落合さんは逆に、「分かってるな?」と一言。“それが何か”は自分で考えないといけない。言葉数は少ないし、勝負の場では絶対に喜怒哀楽を外に出さないけれど、あえて感情を殺していたんじゃないかな。演じている部分もあったと思います。本質的には、ノムさんも落合さんも情が深くて人間味のある方です。

世紀の奇策「開幕投手・川崎憲次郎」の裏側

――何をしてくるか分からない、という「策士」の印象を植え付けた最初の出来事が、就任1年目、'04年の開幕戦でした。この本では第1章に詳しく描かれていますが、'01年にヤクルトから移籍後、右肩の故障で3年間一軍登板ゼロだった川崎さんを、開幕投手に抜擢するという“奇策”でした。

川崎 落合さんから電話で開幕投手を告げられたのは1月2日。なぜあんなに早く言われたのか、なぜオレだったのかという疑問は今でもあるんです。そこから3カ月はモチベーション高く準備しましたが、辛かったのは、監督から「知っているのはオレとお前だけだからな」と言われていたこと。これはもう、絶対誰にも言えない。森野も知らなかったでしょ?

森野 最後の最後まで誰なのか分からなかったですね。野手が知ったのは試合前練習中のグラウンドで、球場のバックスクリーンで発表された時じゃないですか。

鈴木 当時は予告先発じゃなかったので、私たち番記者は開幕投手を予想するわけですが、どこに取材しても全く情報が出てこない。後になって、実は落合監督はチームの内部情報がどこから漏れているのかを調べていたと聞きました。誰を先発させるのかは、現場のコーチですら知らされていなかったとか。

川崎 試合直前にブルペンに入った時、投手チーフコーチだった(鈴木)孝政さんに、お前だったのか! と言われましたから。自分自身もギリギリまで誰にも言わなかった。調整があるのでトレーニングコーチと、選手はタツさん(立浪和義)。井端(弘和)は前日、喫茶店に呼び出して明かしました。俺の周りではその3人だけ。

森野 普通はみんな耐えられないし、情報って漏れるものですけどね……。

川崎 開幕2週間くらい前になると、投手陣でそんな話になるわけです。ロッカーで(山本)昌さんが“おい開幕は誰なんだよ?”と言いだして……。(川上)憲伸も、野口(茂樹)も“違います”と首を振り、ついに“お前か?”と回ってきた。“俺のわけないじゃないですか”と答えて、すぐにトイレに隠れました。味方も騙さなければいけませんでした。

【次ページ】 「この試合は絶対に勝たなきゃいけない」

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