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落合博満のオレ流すぎる初陣《開幕投手・川崎憲次郎》に当事者たちは何を思ったのか?「誰にも言えない」「絶対に勝たなきゃ」
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byTamon Matsuzono
posted2021/10/11 11:00
誰よりも「勝てる監督」だった落合博満。在任中は4回のリーグ優勝に加えて、8年連続でAクラスを維持した
「この試合は絶対に勝たなきゃいけない」
鈴木 でも後から振り返ると、実は開幕戦から逆算してきっちり“中10日”の間隔で実戦登板していたんですよね。
川崎 調整はしやすかったです。ただ肩は本当に痛かった。1球投げるごとに痛みを鎮めるために後ろを向いて深呼吸していました。森野に聞きたいんだけど、あの時野手はどんな気持ちでオレのこと見てたの? 何でこいつなの、と思ったはずなんだよ。
森野 僕らは川崎さんが苦しんでいる姿を見てきましたから。まずマウンドに立っていることが信じられないし、点をとられようが何だろうが、投げていること自体が強烈なインパクトでした。開幕戦って人のことを気にする余裕はないんですが、あの年は自分のことより川崎さんに釘付けになっていた気がします。
川崎 何か鳥肌立ってきたな……。17年たって初めて聞けることです。
森野 落合さんはどんな戦い方をするのか、を選手も注目してのぞむ初戦。それが川崎さんでフタを開けて、最後は大逆転勝ち。ボルテージは最高潮でした。みんな全力疾走していましたよね。この試合は絶対に勝たなきゃいけない、って。今までのドラゴンズと雰囲気が全く違った。あの試合は一生忘れない。そのくらいの出来事でした。
鈴木 '11年に監督を辞められるとき、落合さんが記者に“最初の1勝がなければ後の勝ちもない。一番印象に残っているのは一番最初の勝利だ”と話していました。
川崎 何をするか分からない、という不気味な印象を他球団にも植え付けられました。
鈴木 あれから私たちドラゴンズ担当の記者も、投手の調整を緊張感を持って見るようになりました。双眼鏡を片手に誰が何本走ったとか、スパイクに土がついている、とか。オレに何か訊く前に、お前ら記者もちゃんとチームを見ろ、と言われているようでした。
記憶を失うほど壮絶だった“落合ノック”
――本の第2章で印象的なのは森野さんに浴びせられる壮絶な“落合ノック”です。'05年の秋季キャンプで「レギュラーを取りたいか?」と問われ、チーム内で絶対的存在だった立浪が守る三塁のポジションへの挑戦を焚きつけられます。失神してグラウンドに救急車が呼ばれるほどだったとか。
森野 ノックと聞いて出てくる言葉は、「またかよ」、「何でオレだけ?」、「ふざけんな」。その3つだけでした。
川崎 そうだろうね(笑)。