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「自分より、娘も、家族も限界でしたから」荒木絵里香(37)が一石を投じたキャリア選択《18年の選手生活を終えて》
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byKYODO
posted2021/10/08 11:05
記者の質問に丁寧に言葉を紡ぐ荒木絵里香。清々しい表情が印象的だった
高校卒業から18年に及んだ、バレーボール選手生活の終焉。
「和香ももうすぐ8歳。ママが必要な時期って、数えたらあと何年あるかわからないですよね。今までは自分の目標を追ってきたけど、そこだけ求めていくのはもう終わりかな、と思ったし、そうしたいと思ったんです。今は、行ってきます、いってらっしゃい。ただいま、お帰り、を言い合えるのが嬉しいみたいだし、私も嬉しい。
この前なんて、あまりに甘えてきたから『もう2年生なのにどうしたの?』って言ったら『言っておくけど、ママ、和香ちゃんが産まれてから7年いなかったんだから、あと7年はこうだからね』って(笑)。そんなこと言われたら、完敗ですよね」
チームに残りながら大学院へ
今は穏やかに、母親としての時間を最優先にしているが、一方では着々とセカンドキャリアに向けたスタートも切られようとしている。
昨シーズンまでプレーしたトヨタ車体にはチームコーディネーターとして残り、戦力強化に向け一役担うだけでなく、ホームゲームなど試合にも足を運ぶ。さらに「合格したら」という前置きもつくが、来春からは大学院でコーチングも学ぶ予定だ。
「これだけ長くやってきたとか、オリンピックに4回も出てすごいと言ってもらえることもあるけれど、でも裏を返せば今までずっとバレーボールの現場で選手として生きてきただけだから、何も知らないんですよ。それで社会に放たれるってもはや恐怖しかないし(笑)、バレーボールも、もっと違う角度から深く学びたい。人にどうやって伝えるか、今まではあれがこうで、とか適当に言っても理解してもらえたけれどこれからは通用しないじゃないですか(笑)。勉強しなきゃいけないことだらけです」
これからどう生きるか。抱くイメージはまだおぼろげで、コーチングを学ぶからといって指導者になりたいというわけではなく、チームを強くするためのマネジメントや、地域、企業、スポンサーとの関係をいかに構築すべきか。スポーツビジネスにも興味がある。
さらにいえば、女性が結婚、出産しても、当たり前に働くことができるという選択肢がある環境にしていくために、個々の意識や社会制度として何が不足しているのかにも興味がある。修士課程、博士課程に進んだらいくつになるんだろう、と言いながらも、今まで経験してきたことを、この先に活かしたい――。
未来を描き、楽しそうに笑い、自身がいないこれからの女子バレー界を担う選手たちに、思いを寄せる。
「オリンピックの負け、この結果をどう活かして行くか。私もまだ思い出すと苦しいし、映像も見ていないんです。でもまだこれから先がある選手も多いから、まずは個が強くなってほしい。日本の女子バレーって、まずチームのために、みんなのために、という発想で、それはそれでいいことだと思うけれど、本当はまずチームじゃなく、まずは自分。
石川(祐希)くんもよく言っていますけど、やっぱり個が強くないとチームも強くならない。私も海外へ行って、すごく実感させられたので、海外へ行けばいいというわけではないけれど、今いる選手、これからの選手にはまず個が強くなるために、そういう選択肢がある、と考えてもいいと思う。自分で選ぶ、ということが大事なんじゃないかな、と思いますね」