とはいえ、藤井と同様に篠山も、立場が変わったからといって急に何かを変えるつもりはなく、チーム全体も特に大きく変わったところはない。佐藤HCが就任以来口にする「選手一人ひとりがリーダーシップを持つように」という意識が浸透していることは間違いなく、特に今シーズンは「全員が副キャプテン。それぞれの個性でチームを引っ張ってほしい」と佐藤HCが明言する中で、「竜青も今まで通りにリーダーシップを発揮してくれている」と、その求心力を高く評価する。

「苦しみが一番わかるのは自分だと思うので」

　そんな篠山が今考えている理想的なチームのあり方は「キャプテンがどう振る舞うかではなく、周りがどう担ぐか」。藤井に対して「アドバイスは特にしていないです。祐眞は祐眞のままでいてほしいですし、プレーで引っ張る選手なのでそのまま背中で見せ続けてくれればいい」と全幅の信頼を置いた上で、「自分は誰かが困っている時に手を出せる、かゆい所に手が届く存在でいたい。特にキャプテンが困っていれば、その苦しみが一番わかるのは自分だと思うので」とその背中を支える覚悟を抱く。

東芝、川崎、そして日本代表でもキャプテンであり続けた篠山。身軽になった今後のプレーが楽しみだ

　そして篠山にはもう一つ、今シーズンに賭ける強い決意がある。これまではキャプテンとしてチームをまとめることに意識を傾け、代表活動への意欲にも満ちていたが、多方面に向けられていたベクトルを自身への太いベクトルに集約し、1人の選手として持つ理想の姿に近づこうという意識がこれまでになく高まっているところだ。

「自分と向き合って、誰かと比べることなく自分が突き詰めたいポイントガード像を追いかけるシーズンにしたい。もう1回自分に矢印を向けて楽しみたい、楽しめるんじゃないかなって思ってますね」

　横浜との開幕戦では、チームが勢いに乗った状態で迎えた第4クォーター早々に4点プレーを決めてその勢いを加速。8アシストもマークして勝利に貢献すると、先頭に立ったコート一周ではチームメートが足を止めて誰もついてこない“放置プレー”にさらされながらも、「ここで立ち止まるとか、オドオドしたら負け。堪能させてもらいました」と1人で回り続け、観客席に向かって投げキッスも飛ばしてみせた。プレーの面でさらに存在感を増して川崎を牽引し、リーグ屈指のエンターテイナーとしても今まで以上にその輝きを増すことだろう。