ぶら野球BACK NUMBER
「松井クンは高倉健に似とるワ(笑)」週刊誌で18歳松井秀喜のナゾグラビアまで…29年前ドラフトフィーバーはどのくらいスゴかった?
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph bySankei Shimbun
posted2021/10/08 17:03
1992年のドラフト会議で4球団に指名された松井秀喜。長嶋茂雄がクジを引き当て、交渉権は巨人に。その後、松井フィーバーが起きる
「高倉健に似とるワ(笑)」
『週刊ポスト』93年1月15日号では、重鎮の青田昇と50歳離れた年の差対談が実現。どういうわけか普段は辛口評論が売りの青田の方が、舞い上がっているようにすら思える発言を連発する。
「フフフ、いやァ、会ってみると顔に何ともいえん“愛嬌”があるね。うん、今、気がついたけど、高倉健に似とるワ(笑)。長嶋は高倉健の大ファンやから。もう“健さん”の映画全て観とるから。こら、変な所で、ミスター好みの選手やな(笑)」
まさかの松井秀喜=高倉健説をぶっこむ、ジャジャ馬・青田。松井本人が苦笑いで否定しても、「しかし、話し方まで高倉健の雰囲気に似とるなァ。ワシ、長嶋に“健サン”てアダ名にしたらどうやというとこうかな(笑)」なんつってゴリ押しするご機嫌なアオさんであった。「ワシはな、長嶋がドラフトで松井クンを引いたときに、“ああ、これで巨人の再建はできた”と思ったもんよ」と褒められると、嬉しそうに照れて頭をかくゴジラ。かと思えば、「(プロの)スピードに慣れさえすれば、なんとかなるんじゃないかと、ハイ」なんて揺るぎない自信もチラ見せ。この感情の緩急の使い分けに、さらに喜んだアオさんは、「ワシにいわせると、清原は“青竜刀”で松井クンは名刀・正宗みたいな“日本刀”やね」と楽しそうにいまいち分かりにくい例え話を語り出す。
恐るべし、ジジイ転がしのヒデキである。『週刊読売』93年1月24日号では、落語界の大御所・桂三枝と対談。身長185cm、体重85kgの立派な体躯と落ち着いた態度に、「本当に一年もダブらずに高校三年生?」というナチュラルに失礼な挨拶をかます三枝師匠を適当にいなしながら、現役時代の長嶋監督は凄い人だったと聞かされると、ミスターが引退した年に生まれた松井はあっさりこう答える。
「あ、そうっスか。あんまり知らないんです。たまにVTRで見るぐらいで」
過熱するゴジラフィーバーはまだ終わらない。『週刊現代』93年1月1日・9日号では、なんと篠山紀信が撮影する巻頭カラーグラビアにゴジラが登場。当時大人気の宮沢りえ、観月ありさ、牧瀬里穂の“3M”ではなく、まさかのもうひとりのM=松井秀喜を激写だ。熱撮タイトルは「松井秀喜と北陸の海」。冬の海辺でバットを構え、「お母さんのつくる魚料理が一番うまい」なんてほのぼのと自宅でくつろぐ松井とゴジラママに向かってシャッターを切る紀信……ってもはやわけが分からない。冷静に考えるといまいち意味不明。いつの時代も、それこそ社会的ブームの証明である。
「プロ野球人気が下がっていると言われていますが…」
混沌と狂熱の中で、92年12月25日には巨人入団会見が開かれる。ここで松井は自分に託された役割と、未来への意気込みを堂々と口にしてみせた。