プロ野球スカウト「（松川は）サードで鍛えてもいい」

「捕れればアウトぐらいのスローイング能力があるんだから、サードで鍛えてバッティングを伸ばしてもいい。僕らが用があるのは、松川のバッティングですからね」

　スカウトの中には、そうした声もある。

「プロの捕手の日常」というのは、とても忙しいそうだ。

　ブルペンで投手たちのピッチングを受け、より正確で敏捷なスローイングを目指して練習し、ショートバウンドを止める練習に、サインプレーの一部始終を覚える。腰を据えてバッティング練習ばかり……というわけには、なかなかいかないらしい。

　松川虎生のバッティングが生かせるなら、それでもいいのかもしれないと思う。

　高校通算本数がすごいとか、見上げるような和歌山・紀三井寺公園野球場の外野ネットを越えていったとか、彼のバッティングはそういうことじゃない。

　振り抜いたファールが一塁側に飛んでいくのが、「ホンモノ」の証しだ。

　始動のタイミングが早く、そのぶんボールを長い時間見られて、しっかり見極めているからこその、渾身のフルスイング。これこそ、プロ仕様のバッティング・メカニズムだろう。

　武田信玄の「風林火山」。速きこと風のごとく、静かなること林のごとく、熱きこと火のごとく、動かざること山のごとし……。

　理想的な捕手像を端的に現わしている言葉とも、私には思えるのだが、まさにこれらの要素をすべて兼備し、体現している捕手の「逸材」ではないかと見ている。

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