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「当ててしまって申し訳ないんですけど…」DeNA右エース候補・大貫晋一が登録抹消から復活できたワケ <きっかけは“死球”!?>
posted2021/10/04 11:00
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph by
KYODO
5月の終わり、大貫晋一は登録抹消を通告された。その直近に先発した5試合のうち4試合で4回を投げ切れなかったのだからやむを得ない。失意のうちにファームへ合流した大貫が最初に取り組んだのは、ブルペンでの緻密な作業だった。
「両サイドにしっかりとまっすぐを投げ切ることができなかったので、腕をしっかり振って、強いボールをボールゾーンから徐々に中に入れていく練習をしました。内から広げるのではなく、外から中へ狭めていくんです。右バッターのアウトコースへは左のバッターボックスのラインから少しずつ近づけていく。間違ってもベース板の真ん中へ行かないよう、意識を強く持って投げました」
思えば大貫の命綱でもある右バッターへの内角攻めができなくなっていたのは「腕の振りが弱かった」(大貫)からだ。ルーキーイヤーに6勝、昨年は10勝を挙げて迎えたプロ3年目。開幕から2カード目の頭を任された大貫には大事にいこうという意識が働いていたのかもしれない。
「思うようなピッチングができない中、勝ち星を掴み取ることができなかったので、なんとかしたいって気持ちはもちろんありました。そうなるとカウントを悪くしたくないという思いから、腕が縮こまってボールが弱くなっていたんだと思います」
「あれで吹っ切れました」
きっかけを掴んだのは、デッドボールだ。ファームでの3試合目の登板となった6月20日のスワローズ戦。大貫は右バッターの松本直樹にぶつけてしまう。大貫は言った。
「あれで吹っ切れました。ここまで強く腕を振っても、あのくらい……いや、当ててしまって申し訳ないんですけど(笑)、これだけ振ってあの辺かなって感覚を掴めたんです」
6月27日に一軍へ戻ってからの大貫は勝ち続けた。ローテーションのど真ん中に今永昇太と同学年の大貫の2人が並び立てば、来年以降のベイスターズには光が射すはずだ。
「いや、真ん中にいるなんて思ったこともないし(笑)。まだまだ自分のポジションを掴み取らなきゃいけないんで……左右のエースですか? もちろんそうなれたらいいとは思うんですけど、なかなか難しいですね」
勢いのある言葉を勢いだけで口にしない。おっとり、謙虚なふうでいて、エゲつない内角攻めで懐を抉る。これが大貫の真骨頂なのである。