解説を務めた女子格闘技のレジェンド、藤井惠が「一瞬、昔に戻った気がした」というリング。浜崎と藤野はひたすら殴り合いを展開した。ジャブの差し合いから浜崎が左ストレート。速さも精度も抜群だった。藤野の顔が徐々に腫れていく。判定3-0で浜崎の勝利という結果は、9年前と同じだった。

　打撃勝負は「プランになかった」と浜崎。「やっていて打ち合いが楽しくなっちゃって。今までなかったことですね」。やはり特別な相手との特別な時間だったのだ。

　浜崎は柔道出身、基本的にはグラップラーだ。パンチでダメージを与えた上で組みついて投げ、絞め技、関節技でフィニッシュするのが必勝パターンである。今回の試合でも、寝技で相手を仕留める浜崎が見たかったというファンもいたかもしれない。

　だが浜崎は「一本取れなくてすいません」とは言わない。代わりにこう言った。

「藤野さんと最高の舞台で闘えて嬉しかったです。楽しかった。一生の思い出、財産になりました」

ぱんちゃんにRIZINでの“次”は来るか？

　試合後には込み上げるものがあったと浜崎。その時に頭に浮かんできたのはプライベートの光景だったそうだ。練習もして、2人で食事に行って、そういう相手と大きな舞台で殴り合った。普通の人生を送っていたらできないことだった。

　藤野のコメントはこうだ。

「悔しいです。でも、終わってこんなに清々しい気持ちになれた試合は初めてですね」

　そこに我々が差し挟む言葉はない。浜崎vs藤野の殴り合い、その背景には女子格闘技の歴史があり、2人の関係性があった。この試合の最大の魅力は“文脈”であり、チャンピオンである浜崎はそれをファンに届かせることができた。我々は、これまで一本の山を築いてきた浜崎の実力を知っている。その浜崎があえて殴り合ったのだから、そこには何かがある。そう感じさせる試合だった。

　その浜崎も、実は2018年のRIZINデビュー戦では判定勝利にうなだれた。曰く「一本取って勝つつもりでいたので」。アメリカの女子団体でベルトを巻いた実力を見せつけたいという思いが空回りしたと言い「やっぱり浮き足立ってたんですかねぇ」とも。

　それでも、あの時の浜崎が勝って生き残ったことは事実だ。ただ勝つためだけの試合でもなかった。それはぱんちゃんのRIZIN初戦も同じではないか。

「KOを狙いにいった結果として倒されたのなら、選手の評価は下がらない」

　榊原の言葉である。つまり主催者は、あるいはその向こうにいるファンは、常に内容を見ているということだ。単に勝ち負け、KO／一本か判定かだけで選手をジャッジすることはない。ぱんちゃんにも、それに百花にも、RIZINでの“次”は必ず来る。

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