濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
グラビア・テレビ出演も“色眼鏡”で見られて…キックボクサー・ぱんちゃん璃奈がRIZIN勝利直後に「悔しい」と繰り返した理由
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2021/10/01 11:01
9月19日のRIZIN.30、初の女子キックマッチとして行われたぱんちゃん璃奈vs百花
「女子キックを広めるためには華も知名度も実力も必要なので。自分にはもっと実力がいる。そこはクリアしないと」
次のRIZIN参戦については「私が決められることではないので」と答えた。主催者とファンの声が決めることだと。
なぜそこまで倒して勝ちたかったのかといえば、RIZINに爪痕を残すためだ。インパクトのある勝ち方をして「ぱんちゃんってのは凄い選手だな」、「キックボクシングは女子も面白いんだな」と思わせたかった。RIZINの観客、視聴者はMMAファンが多いから、なおさら普通の勝ちではダメだと思っていた。
加えてぱんちゃんには、実力で認められたいという思いが人一倍強い。デビュー当時から注目され、雑誌のグラビアにテレビ出演。今大会の直前には、デジタル写真集も発売された。女子格闘技でも屈指の人気選手になったが、だからこそ色眼鏡で見られてしまうこともある。またK-1やRISEでは女子戦線が確立しており、トーナメントやライバル対決、チャンピオン対決が選手のモチベーションになっている。対してぱんちゃんはKNOCK OUTの女子部門を1人で引っ張ってきた。
もっと強い相手と闘いたい、他団体のチャンピオンとの試合を組んでほしい。そう訴え続けてきたのも、実力を認められたかったからだ。実力が認められれば「KNOCK OUTに出てぱんちゃんと闘いたい」という強豪選手が増える。その相手に勝てば、さらに実力が知れ渡る。
地上波中継は人生を変えるチャンス
彼女は現在27歳。プロデビューは2019年だから遅いほうだ。格闘技を始めたのも遅い。那須川天心もそうだが、今の格闘技界はジュニア時代から活躍し、そこで実力と経験値を蓄えてプロになる選手が多いのだ。20歳前後のトップ選手は珍しくないし、中には「高校生のうちにベルトを巻きたい」という者もいる。
そういう世界で、成人してからキックを始めた自分が存在感を発揮するにはどうすればいいのか。ぱんちゃんにとっては大きなテーマだ。学生時代、陸上競技で挫折した経験もある。ハードワークがたたって怪我をしたのだ。部活も学校もやめて、無為の日々が続いた。これではいけないと環境を変えるために上京し、キックボクシングに出会う。
キックボクシングは自分を変えてくれたものであり、人生の支えだ。失うわけにはいかないし中途半端にはできない。ほとんど毎試合のように反省点を見つけては泣き、ようやく自分の思うような試合ができてきたところでRIZINからオファーがきた。当日放送ではないが地上波中継もある。ここでなんとなく試合を終えてしまうか、強い印象を残すかで今後の人生も変わってくるという大チャンスだった。
そんな試合で、力を出しきれなかった。悔しい、申し訳ない。そんな思いばかりが先走る。ただ試合直後の彼女のコメントは、相当に割り引いて受け止める必要がある。ぱんちゃんは「人間の中でもトップクラスに感情の起伏が激しい(笑)」のである。本人が言っていたことだ。