「GLOVES」を立ち上げて4年。

　スタッフには帝拳ジムの東洋太平洋ウエルター級王者の豊嶋亮太ら現役ボクサーが多く在籍している。プロから指導を受けることができるのは会員にとっては大きなメリットであると同時に、ボクサーたちにセカンドキャリアを考えるきっかけをつくりたいという葛西の考えもある。

　現役時代は3度の世界挑戦も実らなかった。派手に倒された試合もある。

　だが彼は「悔いがない」と言い切れるまで現役を全うし、引退してからもトレーナーとして後輩ボクサーたちに真摯に向き合って多くのチャンピオンを誕生させた。押さえつけるのではなく、型にはめるのではなく、自分のボクシングを確立させることで自立させていく。それがボクサーたちの身も心も強くした。そして今度は自分のジムを立ち上げ、経営を妻に任せて葛西は一般の人を対象に教えるトレーナー業にほぼ専念している。

「力石のアッパー、教えますから」

　人生、ボクシング漬け。

　これからの目標は、多くの人にボクシングを気軽に楽しんでもらい、愛されるスポーツになっていくその一端を担っていくこと。ひいてはそれが帝拳ジムへの、ボクシング界への恩返しになると信じている。

「さあ、今度はアッパー、いきましょうか。力石のアッパー、教えますから」

　教わる人も、教える人も楽しそうだ。

　

　あのときウィルフレド・バスケスに勝って世界チャンピオンになっていたら、ベネズエラで武者修行することもなかったのかもしれない。名トレーナーの道もなかったのかもしれない。

　勝ちもあれば、負けもある。

　コロナ禍で影響を受けようとも、グチをこぼすこともない。後ろを振り返ることもない。毅然と、前に進んでいくだけ。

　パンチの利いた葛西裕一のボクシング人生。ボクシングを愛し、ボクシングからも愛されている。

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