情熱のセカンドキャリアBACK NUMBER
那須川天心15歳《ボクサーの天才性》は西岡利晃と同レベルの衝撃だった… 葛西トレーナーが知る「相当な可能性」とは
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byYuki Suenaga
posted2021/10/01 06:01
ボクシングの世界チャンピオン4人を育てた葛西裕一氏。那須川天心の才能にも太鼓判を押す
「小さい的を打つわけだから、と言われて、そういう考えもあるんだな、と。あとはみんなシングルボールを使っていました。目を訓練して動体視力を鍛える。確かに理にはかなっているんです」
トレーナーになってから葛西が出した結論は、「どんなやり方でもいい」。フリーハンドにすることで、逆にボクサーの発想力や思考力を引き出そうとした。西岡に対してトレーニング方法を任せる一方で、その内容はメモに書き留めていた。コンディションや意識の変化に気づくようにするためだ。
1階級上げた西岡は2008年9月、5度目の挑戦でついに世界のベルトを巻く。王者は葛西のことを「戦友」と表現した。西岡を陰から支え続けた葛西は、その年に大きな功績を残したトレーナーに贈られる「エディ・タウンゼント賞」を受賞。自分が主戦場としたジュニアフェザー(スーパーバンタム)で西岡が世界を獲ったのも何か運命めいたものを感じないではいられなかった。
「西岡は努力してまた天才度が増していく」
葛西が担当した世界チャンピオンは西岡だけではない。
2011年1月には中学卒業後に帝拳ジムで一からボクシングを始めた叩き上げの下田昭文がWBA世界スーパーバンタム級のタイトルを奪取した。
「西岡は天才だけど、その枠に収まらないと言いますか、努力してまた天才度が増していくんです。一方の下田も天才でした。でも足りないものがいっぱいあった。途中から甘さを捨てて、ヒントを与えたら急に強くなっていきました」
続いて2012年7月にはアテネ五輪代表でアマエリートの五十嵐俊幸がWBC世界フライ級王者となり、2013年4月には“ボンバーレフト”三浦隆司がWBC世界スーパーフェザー級王座を獲得する。帝拳流のスタイルを継承しつつ、時代の流れに合わせて自主性や発想力、思考力を伸ばす指導によって数多くのボクサーを開花させた。