スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
大谷翔平とMVP獲得の確率。二刀流の価値が三冠王より高いのは、MLBの歴史が証明している
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2021/09/25 06:01
史上最年少22歳での三冠王獲得を狙うゲレロJr.(右)。『ESPN』のインタビューでは「MVPは自分だと思う」と発言
そんな大谷の本塁打王獲得に黄信号が灯りはじめている。スランプと四球攻めがつづくとともに、ブラディミール・ゲレロJr.とのMVP争いを云々する声も出てきた。
ただ、こちらに関しては、私は全米野球記者協会の良識を信じたいと思う。
なるほど、ゲレロは素晴らしい打撃成績を残している。9月22日現在の成績は、打率.323、46本塁打、105打点、OPS1.030。打点を除く3部門でリーグトップの位置にいる(打点トップは、サルバドール・ペレスの115)。もし三冠王を獲得すれば、彼のMVPという線もあるのではないかという声は小さくない。
だが、そうだろうか。いまここでシーズンが終わっても、MVPは大谷で動かないのではないか、と私は思う。
大谷がMVPにふさわしい理由
一番明快なのは、大谷のWARが8.1に達しているという事実だ。打者として4.4、投手として3.7。これは両リーグでトップを行く。一方、ゲレロのWARは攻守合わせて6.8。これはカルロス・コレアの6.9よりも低く、マーカス・シーミエンの6.8と同点だ。
たしかにゲレロの水準は高いが、MLBの歴史を振り返ると、彼のスタッツを上回る打者は過去にごろごろ転がっている。だが、20試合以上に先発登板して8割以上の勝率を上げ、3点台前半の防御率を記録し、なおかつ45本の本塁打と23個の盗塁を記録した選手など、MLB史上どこにもいない。
歴史を振り返ると、三冠王を獲得しながらMVPに選ばれなかったケースはしばしばあった。全米野球記者協会の投票がはじまった1931年以降で見ると、33年のチャック・クライン(MVPはカール・ハッベル)、34年のルー・ゲーリッグ(MVPはミッキー・カクレーン)、42年のテッド・ウィリアムズ(MVPはジョー・ゴードン)、47年のテッド・ウィリアムズ(MVPはジョー・ディマジオ)がその例に該当する。ウィリアムズは「最後の4割打者」となった41年にも、ディマジオにMVPをさらわれている。シーズン最後の10試合で、大谷翔平の打棒がふたたび噴火することを期待しよう。