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「アメリカのファンにインパクトを」中谷潤人23歳が初防衛戦で見せた“鼻骨折”TKOの衝撃…日本人ボクサーが海外防衛戦を行うメリットとは?
posted2021/09/13 17:01
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
KYODO
WBO世界フライ級王者の中谷潤人(M.T)が10日(日本時間11日)、米アリゾナ州ツーソンでランキング1位の挑戦者、アンヘル・アコスタ(プエルトリコ)に4回32秒TKO勝ちを収めて初防衛に成功した。将来を嘱望される23歳のサウスポーがアメリカ初陣を飾った試合を振り返りながら、今後について占ってみたい。
技術とスピードの中谷、パワーとパンチ力のアコスタ。戦前の予想を簡潔に言ってしまえばこういうことになるだろう。
「ウィルフレド・ゴメスの再来」と言われたアコスタ
アコスタは元WBO世界ライト・フライ級王者で戦績は22勝21KO2敗。その数字が示すように強打が自慢の30歳で、かつては母国のKOキングになぞらえて「ウィルフレド・ゴメスの再来」と言われた選手である。ちなみにゴメスとは世界戦で17連続KO防衛の世界記録を持つレジェンドだ。
その“レジェンドの再来”は2017年の世界初挑戦で田中恒成(畑中)に敗れてプロ初黒星を喫し、その後戴冠したWBOライト・フライ級王座を3度防衛して19年に陥落した。つまりはかつてほどの輝きはなくなったとはいえ、いまだ怖い挑戦者であることは間違いない――という挑戦者だった。
長身でリーチと機動力のある中谷は、定石通りジャブを突きながら距離を取ってアコスタを料理しようと試みた。アコスタは様子を見ながらインサイドへの侵入を窺う。お互いの力量を見極める偵察戦とも思われた初回終盤、中谷が射程の長い左を打ち抜くとアコスタの鼻が骨折した。
「いいタイミングで鼻に入った。最初のラウンドで入ったのでペースをつかんでいけたと思う」
多彩なパンチを浴びせ続けた
2回以降、目を引いたのは中谷の力強さだ。かつては技術こそ高いものの線が細く、接近戦に弱いと指摘されたこともあったが、この日のチャンピオンは弱々しさを一切感じさせない。鼻から激しく出血する挑戦者の返り血を体に浴びながら、たくましく圧力をかけ続け、ジャブを軸に多彩なパンチを浴びせていく。特にループを描くように外から、あるいはシャープに内からと角度を変えて打ち込む左ストレートが効果的だ。長いリーチを折りたたんでのボディブローも確実にプエルトリコ人の体を削った。