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「負けたら生きていけるのか…」“禁断の愛”との批判を超えて…レスリング向田真優24歳とコーチ志土地翔大34歳が明かした覚悟《金メダル後に結婚》 

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布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

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posted2021/09/08 17:00

「負けたら生きていけるのか…」“禁断の愛”との批判を超えて…レスリング向田真優24歳とコーチ志土地翔大34歳が明かした覚悟《金メダル後に結婚》<Number Web> photograph by Getty Images

東京オリンピック女子53kg級決勝でタックルに入る向田真優

 ルール上、タイスコアのまま試合が終わると、あとに点数をとった方が勝者となる。向田がリードする形になったわけだが、その後ディフェンシブな流れに転じることは皆無だった。逆に向田はタックルでさらに攻めたてる。以前の彼女だったら、考えられない流れではないか。この瞬間、志土地は「練習した成果が出た」とヒザを叩いた。

「リードしていても、攻撃を続ける練習を繰り返していたので」

 その直後、パンは起死回生のタックル返しを狙うが、向田は耐え自分の体を一回転させない。とはいえ、左足を抱えたまま正座するような体勢になってしまった。このままバックに回られると逆転を許してしまう。涙を呑んだ数々の決勝が脳裏をよぎった。

 ここで向田は歯を食いしばった。

「手を離したら、一生後悔する」

 土壇場になると、気持ちと気持ちの勝負だった。その体勢のまま向田は立ち上がり、パンを場外に押し出す。これで5-4。勝負の分かれ目となる場面だった。

 こういう攻防をシミュレーションしていたわけではない。しかし、志土地コーチからの「立てる」という指示はしっかりと耳に届いていた。「あの場面では相手が場外を背負っていたので、ギリギリのところだった。ちょっと間違えば、自分が外に出ることになるので、イチかバチかの攻撃だった。結構危ないシーンだったと思います」。

“禁断の愛”と言われ…「命をかけるくらい追い込まれていた」

 このとき、志土地は「頼む」と神頼みをする心境だったと打ち明ける。

「試合終了のブザーがなるまで、どうなるかわからない展開でしたからね。1秒あれば逆転されてしまうような僅差だった。だから最後までドキドキでした。最後はもう応援する側の人間になっていましたね」

 初めてのオリンピックで初めての金メダル。優勝した直後、志土地コーチは「このまま負けたら生きていけるのか」という名言を残している。交際が発覚したときには学生とコーチの禁断の愛と受け止める者もいたので、志土地は大学のコーチ職を辞めざるを得なかった。だからこそハングリーだった。

 志土地は「あれは偽らざる心境だった」と本音を漏らす。「結果的に負ければ、非難されるだろうし、今まで真優が頑張ってきたことが全部パーになる。言い方は悪いですけど、自分たちの生活もかかっていたので命をかけるくらい追い込まれていました」

 また今回オリンピックを制することで、向田は「彼氏がいても強くなれる」ということを証明した。実際交際する相手がいたら弱くなったり実力が停滞するケースを筆者はたびたび目撃した。要は自覚の問題か。

 将来設計も着々と進んでいる。ふたりで「子供はパリオリンピック後に」と決めた。つまり向田は東京に続いてパリも目指すということだ。53kg級は今年の世界選手権に初出場を果たす藤波朱理(いなべ総合学園高)など新世代が台頭しているので、海外より国内での争いの方が熾烈になる可能性が高い。向田は「朱理ちゃんは本当に強い」と認めたうえで宣言する。

「今回の金メダルを手にしたら、絶対に次もという思いがある。しっかりと勝てるようにまた1から準備していきたい」

 愛は窮地を救う。

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