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《甲子園の新トレンド》“独特すぎるフォーム”の「変則左腕」が増えた理由とは…明徳・吉村は「1週間かからず」サイドスローに
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2021/09/03 17:03
明徳義塾の変則左腕・吉村優聖歩のピッチングフォーム
ドラフト注目の前川も「とても怖いピッチャーでした」
ハイライトは智弁学園との準々決勝だ。
優勝候補を相手に先発し8回まで2安打1失点と、強力打線を封じ込めた。2-1の9回に制球を乱し、3安打、2死球でサヨナラ負けと、勝利を目前に撃沈。「もっとコントロールを付けないと」と嘆いたが、智弁学園の各打者は吉村の脅威を口にした。サヨナラ打を放った岡島光星が言う。
「映像を観てタイミングを取りづらいことはわかっていましたが、実際に対戦してボールの出どころがなかなか見づらかった」
この試合、2死球と警戒されながらも安打を記録した前川右京も、こう舌を巻く。
「とても怖いピッチャーでした。今まで見たことがないような投げ方で、気持ちの強さも感じました。まだまだすごくなると思います」
今大会で2本塁打を記録し、「ナンバー1スラッガー」と呼ばれた前川が語った「今まで見たことがない」という印象が、吉村、ひいては変則左腕の特異性を表している。これについて、吉村を豹変させた張本人であり、甲子園の監督通算勝利数を54まで伸ばした名将・馬淵もほくそ笑んでいた。
「初見は打ちづらいのかな、と思いますよ」
石見智翠館の“2番手”に智弁和歌山も警戒していた
これは何も、明徳義塾に限ったことではない。石見智翠館もそうだった。
まだ校名が「江の川」だった2003年以来のベスト8まで勝ち進んだチームは、島根県大会の決勝でノーヒットノーランを演じたエース・山崎琢磨が軸ではあったが、2番手の山本由吾の存在も異彩を放っていた。
反動をつけるように右足を胸元付近まで上げ、低い位置から左腕を振る。身長167センチの小柄な体を目一杯使ったフォームは、半年ほど前に築き上げられたものだという。