One story of the fieldBACK NUMBER
「ストレートの平均で160キロぐらいを投げて」今年20歳の佐々木朗希が明かす“壮大な未来図”…イチローや松坂大輔と異なる感覚とは
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph bySankei Shimbun
posted2021/08/27 11:04
5月の一軍デビューからここまで6試合に登板した佐々木朗希。11月3日には20歳の誕生日を迎える
「今の時点で考えているのは……、先発ピッチャーとしてイニングをしっかり稼ぐことができて、ストレートの平均で160キロぐらいを投げて、真っ直ぐも変化球もしっかりコントロールができる。そういう総合的に良いピッチャーを目指したいなと思っています」
佐々木は、未来図のアウトラインをこう表現した。
ストレートの平均が160キロに達する――あの大谷翔平ですら、直球の平均球速は150キロ台である――ことに加えて、あらゆる球種を制球することができる。それは「良いピッチャー」の域を超えて、ほとんど世界最高のピッチャーである。静かな口調の裏に巨大な野望が秘められていた。
それを耳にして思い出したことがあった。甲子園でプロ初勝利を挙げた後に、佐々木が口にした言葉である。
『納得できるボールは1球もありませんでした』
セ・リーグ首位のタイガース打線を相手にして、勝利をつかんだゲームを振り返って、佐々木はこう言ったのだ。
「勝ち星がついて、素直にうれしかったという気持ちはありました。でも、もっといいボールが投げられたかなと思います。甲子園では感覚的に良くなかったですし、ボールだけを見たら、手応えのあるものは1球もなかったです」
納得しないながらも、150キロ台のストレートを軸に、勝利のためにできる限りのことをした。その結果としてウイニングボールを手にした。それでも心から笑えなかったのは、その先に続く長い道のりを、目指すボールとのギャップを他の誰よりも自分が知っているからではないだろうか。
「今年に関しては、試合数を多く投げること。来年は開幕からローテーションで投げて、規定投球回を投げるのが目標です。描いているのはそこまでです。僕は基本的にあまり小さな予定とか、小さな目標は好きじゃないんです。完璧主義なので、思った通りにならないと気持ちが切れて、投げやりになっちゃうんです。だから大きい目標だけをしっかり持って、その中で自分のやる気をなくさないように、柔軟に対応していく。我慢することが大切だと思っています」
時代を沸かせたスーパースターたちとは異なる、表出しない野望である。そういう意味では、未来図の描き方にしても、ずっと続けているストレッチにしても、佐々木には、自分をよく知っているという印象がある。
「自分を知るというか……、そういうことの最初のきっかけは、中学生のときの怪我なのかなと思います。それから身体についていろんなことを考えて、気をつけるようになりました」