One story of the fieldBACK NUMBER
「ストレートの平均で160キロぐらいを投げて」今年20歳の佐々木朗希が明かす“壮大な未来図”…イチローや松坂大輔と異なる感覚とは
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph bySankei Shimbun
posted2021/08/27 11:04
5月の一軍デビューからここまで6試合に登板した佐々木朗希。11月3日には20歳の誕生日を迎える
佐々木はそれからも月に1、2度のペースでマウンドに上がり、8月27日現在で6試合に投げ、1勝2敗、防御率3.73という数字が残っている。
「ここまでは順調に試合数は投げられてるかなと思います。投げた次の日などに(投手コーチの)吉井(理人)さんと、次はこうしたいという話をしながら、頭を整理して次の試合に向かうようにしています」
一足飛びに階段を駆け上がり、時代を沸かせたスーパースターたちと比べれば、彼の歩みは一足一足である。
そして、そのペースは公式戦のマウンドに立たない期間中も変わらなかったという。
「プロ1年目は一軍に帯同させてもらったのですが、他の選手の食事やトレーニングを見ていて、すごく意識高くやっているので、あらためて体調管理や体のケアは大事なんだと実感しました。今は、よりハイレベルな方法を自分で見つけられるようにやっています。
プロには球団のトレーニングコーチー、トレーナーさんがいらっしゃって、色々な指導やアドバイスをいただいていますが、それ以外にも時間を見つけて練習後にストレッチをしたり、ウォーミングアップのときにちょっと体操を加えてみたりしています。自分にとって必要なことなので」
投げない間も一足ずつ、歩みを進めていた。
不思議である。なぜ彼はゲームに登板せず一軍に帯同する日々に焦れなかったのか? なぜ投げずにいられたのか? 前のめりに挑戦したいことだらけの年齢だ。ましてや佐々木は160キロの速球を投げる能力を持っている。どんな挑戦だって許されるのに、どうして川辺で小さな石を積むがごとく日々を送れたのだろうか。
「最も大きいのは、チームと自分の意見が合ったというか、自分も納得したから良かったんです。僕は長くチームの戦力になりたいので、そのためには1年目にああいう経験が必要でしたし、チームもそれを求めていました。もちろん、早く一軍で活躍したい気持ちはありましたけど、今の自分のままではできないと感じていたので、自分の未来に懸けたというか……」
そのとき、佐々木の表情に初めて確信が浮かんだような気がした。
「こうなりたいという自分があって、まだそんなに具体的なものではないですけど、自分の将来というか、未来に懸けたということなんです。それがあるから練習も頑張れるのかなと思います。もちろん野球選手なので、試合に投げれば結果を出さないといけない。その上で、この先もっと時間が経って、身体も成長していけば、もっといいピッチングができるかなとは思っているんです」
ああ、そうだったのか……と思った。
なぜ、佐々木がマウンドに上がらなくても前に進み続けられたのか合点がいった。
彼は人知れず、内面に壮大な未来図を描いていた。すべてはそのための一足だったのだ。