One story of the fieldBACK NUMBER
「ストレートの平均で160キロぐらいを投げて」今年20歳の佐々木朗希が明かす“壮大な未来図”…イチローや松坂大輔と異なる感覚とは
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph bySankei Shimbun
posted2021/08/27 11:04
5月の一軍デビューからここまで6試合に登板した佐々木朗希。11月3日には20歳の誕生日を迎える
手元には編集部のT氏が送ってくれた何枚かの資料があった。それらのA4用紙の中では、オリックス・ブルーウェーブのユニホームを着たイチローと、まだほっそりした童顔の松坂大輔が挑戦的な視線をこちらに向けていた。資料の中身は、この世界に名を刻んだスターたちの20歳当時のインタビュー記事であった。
記事によると、二十歳になったころの鈴木一朗は一軍と二軍を行ったり来たりの2年目を終えたところであり、若手を育成するためのハワイ・ウインターリーグでチーズバーガーを食べていたという。「イチロー」になる直前の当時の心境を、後にこう語っている。
『210本のヒットを打ったのは3年目、20歳のときですけど、僕としては1年目にファームでやって、2年目には一軍で3割を打つつもりでしたから(笑)。ずいぶん遠回りをしたという感覚がありますね』
一方で、ルーキーイヤーに16勝を挙げた松坂は、二十歳になる2年目のシーズンを前にして、こんな言葉を残している。
『夢って言葉、好きじゃないです。色んなことは夢じゃなくて、目標ですから』
『ただ野球で一番になりたい。それだけなんです』
2人のスターに共通しているのは、いずれも誌面から飛び出してきそうなほどの野望と確信にあふれていることだ。他者の想像を上まわる未来図を、世の中に突きつけている。
だが、目の前の佐々木にそうしたギラギラした漲りは見えなかった。160キロのストレートと謙虚さとのギャップ――思えばそのイメージは、佐々木がプロ野球に入ってからずっと彼のまわりに漂っているものだった。
何しろ、佐々木はプロ1年目、1試合も公式戦で投げなかった。一軍デビューを果たしたのは、2年目の今シーズンである。
一軍デビュー、プロ1勝目は甲子園
5月半ば、春風薫る本拠地マリンスタジアムでの西武ライオンズ戦だった。5回を投げて6本のヒットを浴び、4点を失った。
「初登板のときは、あんまり変化球の調子が良くなかったので、配球面で真っ直ぐだけになってしまいました。そこを打たれてしまったところもあったんです」
初勝利はそれから約10日後、ナイター照明に光る甲子園での阪神タイガース戦だった。
「初登板のときに変化球であまりカウントを整えられなかったので、変化球をうまく使って、最後は真っ直ぐを投げきることを意識しました」
4点を失ったものの、ゲームを壊さずに5回を投げ切ると、その直後に味方打線が逆転してくれた。平成の怪物よりも1年以上遅い、プロ1勝目であった。