無死から四球と犠打で1死二塁のピンチを迎えると打席は代打の小野勝利。期待の1年生スラッガーで、中学時代からメディアに取り上げられるなど名の知られた選手だったが、西村は貫禄を見せる。初球のストレートでファールを取り、チェンジアップとスライダーで翻弄して1ボール2ストライクと追い込む。最後はストレートを高めに投げ込み空振り三振。続く1番の緒方は0ボール1ストライクからのストレートで一飛に抑えた。

「野球において学年は関係ないと思うんですけど、少し気にする部分はあった。打たれたくなかった。（緒方に）安打はされたので、いいバッターだと思う」

　西村は緒方の実力を認めつつも、勝負どころでは打たれなかった。相手を認めているところも3年生として貫禄を感じさせる言葉である。

「彼らにはあと4回の甲子園がある」

　5−0の9回にマウンドに上がった小畠は3人でシャットアウト。最後のバッターは1番の緒方だったが、こちらは空振り三振。智弁学園の3年生たちの力と意地が上回った。

　それもそのはずだ。エースの西村やクローザーを務めた小畠、そして前川は1年生の頃から甲子園の舞台を経験。苦い想いをしてきたのだ。2年前の夏、初戦の八戸学院光星戦に小畠が先発して3回途中4失点で降板。3番手でマウンドに上がった西村は決勝点を献上している。当時4番だった前川は乱打戦の8回に回ってきたチャンスであえなく凡退。1年生だった3人は甲子園の舞台で苦杯をなめていた。

「甲子園の借りは甲子園で返す」と意気込んだ3人だったが、昨年は新型コロナウイルスの感染拡大によって、大会が中止。交流試合に出場したものの、中京大中京のエース・高橋宏斗（現・中日）の前に、西村は10回で自責点2ながら投げ負け。前川は3打数1安打のみに終わり、小畠は出番がなかった。

　だからこそ今年の智弁学園、特に主力選手たちにとって「1年生に負けるわけにはいかない」のだ。

　智弁学園の小坂将商監督も意地があったとこう語っている。

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