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「マジ、ヤバかったです」菊池雄星がメジャー行の飛行機で大号泣した“花巻東高校監督からのビデオレター”
posted2021/08/13 11:01
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph by
Nanae Suzuki
東北勢に初の日本一をもたらすところまであと一歩に迫りながら、涙を飲んだ高校時代。メジャーを目指して過ごした濃密な時間を夢が叶った今、アメリカの地で振り返る。
〈初出:2019年7月25日発売号「〈覚悟の夏を語る〉菊池雄星 『監督を男にしたかった』」/肩書などはすべて当時〉
春のセンバツで勝ち進んだ花巻東は、決勝で清峰に0-1で敗れたものの、日本一まであと一歩のところへ迫った。1年夏の甲子園と同じく、またも1点に泣いた菊池は、近づいたからこそ、日本一への距離を思い知らされることになる。
「僕は本気で日本一を狙っていました。本気で狙っていたのに準優勝だったということは、日本一はまだ早いと言われたような気がしました。日本一になると信じていた中での準優勝は、僕にとっては試練以外のなにものでもありませんでした」
最後の夏、菊池を襲ったアクシデント
最後の夏、菊池は“覚悟”に加えて“最強エース”“男の花道”“花東伝説”と書き記して、岩手からの日本一を目指した。そして岩手大会を勝ち抜いて立った、最後の夏の甲子園の舞台。花巻東はベスト8まで勝ち上がる。しかし、準々決勝の明豊戦で、菊池をまさかのアクシデントが襲った。背中に激痛を感じ、5回途中でマウンドを降りることになったのだ。のちの精密検査で判明した左の肋骨の骨折のことを菊池は誰にも言わず、一人で痛みに耐えていた。
「たぶん、みんなは交代したときに初めて気づいたんだと思います。今、こうやってメジャーで投げているから言えるんだよって言われちゃうかもしれませんが、あのときは本当に、もう野球ができなくなってもいいから投げたい、と思っていました。もしあそこで野球人生が終わっていたとしても、きっと僕は、あのメンバーと一緒に日本一を目指した結果なんだから悔いはないと思ってるんじゃないですか。ケガをしたらダメとか、将来のために投げないほうがいいとか、そんな気持ちはまったくなかったし、今もそれでよかったと思っています」
菊池がマウンドを降りた明豊との準々決勝は、打線が粘って7-6と逆転。中京大中京との準決勝では、菊池はとても投げられる状態ではなく、リリーフで11球を投げるのが精一杯だった。準決勝での1-11の大敗……花巻東は、またも日本一の座に上り詰めることはできなかった。それでも、と言って、菊池がこう続けた。