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リオ直前“選手生命危機の大ケガ”から5年、東京五輪で走り高跳び金を分かち合い… イタリア&カタール人のエモすぎ友情物語

posted2021/08/06 17:03

 
リオ直前“選手生命危機の大ケガ”から5年、東京五輪で走り高跳び金を分かち合い… イタリア&カタール人のエモすぎ友情物語<Number Web> photograph by Yohei Osada/AFLO

タンベーリとバルシムはライバルであり、戦友であった

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弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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Yohei Osada/AFLO

日本勢の活躍が目立つ東京五輪。海外アスリートにも面白いエピソードを持った選手は数多くいます。そんなメダリストたちの肖像をご紹介します(ヤンチャな警察官が「100m最速男」になるまで編はこちら)。

 なぜ、彼らは金メダルを分かち合えたのか。

 男子走高跳決勝で、2m37を跳んだジャンマルコ・タンベーリ(イタリア)とムタズエサ・バルシム(カタール)がともに金メダルを獲得した。

 決勝はハイレベルな戦いになった。2m33を7人が跳んだのは五輪史上初。マクシム・ネダセカウ(ベラルーシ)も2m37をクリアしたが、すべての跳躍をノーミスでまとめた前述の2人に対し、2回の試技失敗が響いて銅メダルに。

 残ったタンベーリとバルシムは、ジャンプオフ(優勝決定戦)を選ばず、規定により2人の五輪王者が誕生した。

 五輪の決勝に残るほどのアスリートなら、エゴの塊であっておかしくない。1番を決めるのだとタンベーリかバルシム、どちらかが望めば競技は続行されたはずだった。

 しかし、彼らは相手の顔色を窺ったり、怪訝な表情を浮かべるでもなく、ただ互いの目と目を一瞬合わせただけで思いを通わせた。すぐに手を打ち合わせ、歓喜の抱擁を交わした。

「バルシムとしかこんなことはできない。僕らのうちどちらも、相手から人生最高の喜びを奪いたくなかった」

 そう言って感極まったタンベーリは、いささか古ぼけたギプスを持ち出すとそれを胸に抱きしめ、激情に身を委ねた。多分に劇場的だが、彼はなぜそんなものを持ってきたのだろう。

リオの20日前時点で“最も跳べている”男だった

 舞台は2016年7月16日に遡る。

 リオ五輪開会式のわずか20日前、イタリア選手団の正式発表を受けたばかりのタンベーリは、最終調整の場として、IAAF(世界陸連)ダイヤモンドリーグのモンテカルロ大会に出場した。このとき、彼は世界で"最も跳べている"ジャンパーだった。

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