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<42歳の引退表明>最高峰クラス通算115勝 WGPの常識を変えた天才、バレンティーノ・ロッシが下した「正しい決断」とは 

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遠藤智

遠藤智Satoshi Endo

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photograph bySatoshi Endo

posted2021/08/06 17:01

<42歳の引退表明>最高峰クラス通算115勝 WGPの常識を変えた天才、バレンティーノ・ロッシが下した「正しい決断」とは<Number Web> photograph by Satoshi Endo

1979年2月16日生まれの42歳。会見では涙はなく、世界に愛された陽気なキャラクターらしい笑顔を見せた

 ロッシは今年、1996年のデビューから26年目のシーズンを迎えていた。最高峰クラスに昇格してからは22年間、トップライダーとして君臨してきた。これまで423レースを戦い、115勝、235回の表彰台を獲得している。こんなとてつもない記録を残してきたスーパースターにとって、35分間の会見はあまりにも短いものだった。しかし、コロナ禍の中でまだ10戦前後のレースが残っているし、「最後まで速く走れるように頑張る」というロッシにとって、いまの心境を語るには十分な時間だったように思えた。

 振り返ればこの数年、MotoGP最大の話題は常にスーパースターのロッシの動向だった。今回の会見が来季の継続発表になると思った理由は、今季、あのロッシがプライドをかなぐり捨てて、自分が育ててきた後輩たち、フランチェスコ・バニャイアやフランコ・モルビデリの後ろについて、必死にタイムを出そうと頑張っていたからだ。

 この数年、ロッシは「なぜか速く走れなくなってきた」と語り、納得のいかない状態は続いていた。そのロッシが必死に走って速く走れない要因を探ろうとしたことが、結果的に「納得のいく状態」を招いたのだろうと思った。

42歳の限界

 速く走れなくなった理由は、42歳という年齢にあることは間違いない。動体視力の低下は、ロッシが得意とするブレーキングで顕著に影響が出るからだ。そして、コーナーでのバンク角も徐々に足りなくなり、コーナーリングスピードと立ち上がりで少しずつ遅れる。会見でロッシが「自分が納得出来なければ、辞める気持ちにはなれない。でも、いまがそのタイミングなんだろう」と語ったのは、もしかすると、後輩たちの後ろで42歳の限界を見てしまったからではないか。

 ロッシは、ホンダで500ccクラスにデビューした2000年、ヤマハに乗り換えた04年、そして5連覇の後、2年間タイトルから遠ざかり、3年ぶりにタイトルを獲得した08年を思い出深いシーズンに挙げた。この3つのシーズンは、ロッシにとって大きなターニングポイントだったに違いない。

【次ページ】 グランプリを変えた生ける伝説

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バレンティーノ・ロッシ
ペトロナス・ヤマハSRT

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