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<42歳の引退表明>最高峰クラス通算115勝 WGPの常識を変えた天才、バレンティーノ・ロッシが下した「正しい決断」とは
posted2021/08/06 17:01
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph by
Satoshi Endo
ヤマハのバレンティーノ・ロッシが、MotoGP後半戦のスタートとなる第10戦スティリアGPで、今季を最後に引退することを表明した。
会見は木曜日の夕方に行われ、ロッシが来季について語るという触れ込みだった。具体的な内容についてはまったく知らされておらず、僕はきっと「来季も参戦する」という発表になるのだろうと思っていた。
会見場に入ると、スポットライトを浴びる形で椅子がひとつポツンと置かれている。会見の開始を前にグランプリを運営統括するドルナスポーツのカルメロ・エスペレータCEOが入場し、会場横の椅子に腰を下ろした。このときに僕は「これは引退会見なんだろうなあ」と確信した。
会見時間が来た。ロッシが入場する。そして司会者に促される形で彼は話し始めた。
スポーツの世界はリザルトがすべて
「夏休み明けに来年のことを決めると言ってきたが、今シーズンを最後にやめることにした。残念ながら、MotoGPライダーとしては、これからの後半戦が最後のハーフシーズンになる。来年、もうバイクのレースをしないというのはとても悲しく難しい決断だった。来年、自分の人生は変わるが、この26年はとても素晴らしい時間だった。デビューからこれまで長い長い旅だったが、本当に楽しかった。自分のために働いてくれた仲間たちとは、忘れられない時間を過ごした。だから、それ以上は何もいうことはない」
そして、こう続けた。
「これまでの長いキャリアの中で、幸運にも多くのレースで優勝することが出来た。その中には、忘れられない瞬間や勝利がある。1週間笑っていて、10日経っても笑っていられるようなレースもあった。だから、やめるというのは難しい決断だったが、スポーツの世界は最終的にリザルトがすべてだから正しい決断だと思う。来年からスタートする自分のチームで弟(ルカ・マリーニ)と一緒にレースを戦うという選択もあったが、でも、これでいいんだと思った。(コロナ禍により)後半戦、あと何レースあるのかはわからないが、最終戦を迎える頃には前半戦より難しい戦いをしているかも知れない。だから、いま、みんなに自分の決断を伝えたいと思った」
明日からフリー走行が始まるというタイミングもあって、このときロッシの目に涙はなかった。