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「戦友ですね」野中生萌(24)と野口啓代(32)を強くした“年の差でもリスペクト”のライバル関係《スポーツクライミング銀・銅メダル》 

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津金壱郎

津金壱郎Ichiro Tsugane

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photograph byAsami Enomoto/JMPA

posted2021/08/07 20:00

「戦友ですね」野中生萌(24)と野口啓代(32)を強くした“年の差でもリスペクト”のライバル関係《スポーツクライミング銀・銅メダル》<Number Web> photograph by Asami Enomoto/JMPA

スポーツクライミングで銀メダルを獲得した野中生萌(右)と銅メダルの野口啓代

野口の前に現れた「戦友のような存在」

 その間いつも待ち焦がれていたのは「同じ次元で競い合える日本選手だった」という。それは国内大会から世界レベルの戦いをして、自分の限界を引き上げてくれる選手を渇望していたからだ。

 そこに現れたのが野中だった。2014年にボルダリングW杯にデビューすると、6月のフランス・ラヴァル大会では2位となって初めて表彰台に立った。この活躍が刺激となったわけではないだろうが、野口はこの年に3度めのボルダリングW杯年間女王に輝いた。

 野口は以前、野中の存在をこう語っている。

「私がひとりきりで戦っていた場所にようやく現れてくれた戦友のような存在ですね」

「いつの日か啓代ちゃんに追いつきたい」

 一方、野中がクライミングジムに通い始めたのは小学生のとき。山好きの父親の影響だった。ジムで登るよりも走り回っているのが印象的だった少女は、中学生になると天性の運動神経も相まって大会でも上位に名を連ねるようになった。

 高校2年生だった2014年にボルダリングW杯にデビューし、2016年にはボルダリングW杯インド・ナビムンバイで初優勝。シーズン最終戦も表彰台の中央で笑顔を咲かせた。

 その野中にとって8歳上の野口の存在は「追いかけがいのある背中」だという。ボルダリングW杯の年間女王となった2018年の取材時に、次のように明かしている。

「ボルダリングの道を切り拓いてくれて、日本選手でも世界のトップで戦えることを示してくれた。私だって頑張ればいつかは世界で勝てる、いつの日か啓代ちゃんに追いつきたい。そう思わせてくれるのが啓代ちゃんですね」

東京五輪への熱量には“大きな差”があった

 互いを意識しながらボルダリングW杯での優勝を目標にしていた両選手に、大きな転換点が訪れたのが2016年夏。東京五輪でのスポーツクライミングの実施決定だった。だが、当時のふたりが東京五輪にかける熱量には大きな差があった。

【次ページ】 野中「リスペクトがないように感じた」

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