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「これほど多くの犠牲を払ったランナーは…」30歳大迫傑は“濃すぎる4年間”で日本男子マラソン界をどう変えた?
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph byNanae Suzuki
posted2021/08/07 11:04
東京五輪を前に、自身のTwitterにて“事実上のマラソン引退”を発表した大迫傑
しかし、翌2017年2月、大学1年時以来約6年ぶりに出場したハーフマラソンで好走すると、「東京五輪でマラソンを目指すなら、そろそろマラソンを経験したほうがいいんじゃないか」というコーチのピート・ジュリアン氏のゴーサインもあり、初マラソン挑戦が決まった。
そして、“大迫、ボストンマラソン走るってよ”と、Twitterで唐突に表明。陸上ファンを賑わせた。
初マラソンでいきなり「瀬古利彦以来30年ぶりの快挙」
マラソンデビュー戦となった2017年4月のボストンマラソンは、優勝したジェフリー・キルイ(ケニア)、2位のゲーレン・ラップ(アメリカ)に次いで、3位と健闘した。ちなみに、キルイはその年にロンドン世界選手権の金メダリストとなり、ラップは前年のリオ五輪の銅メダリストでもある。大迫は、初マラソンでいきなり世界のトップ選手と互角の戦いを繰り広げてみせた。
また、日本人が伝統あるボストンマラソンの男子の部で表彰台に上がるのは、1987年に優勝した瀬古利彦氏以来30年ぶりのことだった。リオ五輪では日本勢は惨敗に終わっていただけに、日本マラソン界にとって、久々に明るい話題だった。
「東京オリンピックのマラソンは自分にとって大きなもの。1つ1つの大会や1つ1つの練習を大事にしていくことの先に、東京オリンピックがあると思っています」
東京オリンピックに向けて好スタートを切った大迫は、その後も着実に実績を積み重ねていく。
2度目のマラソンとなった2017年12月の福岡国際マラソンでも2時間7分19秒の好記録で3位。2018年のシカゴマラソンでは2時間5分50秒の日本新記録を樹立し、日本人で初めて2時間5分台に突入した。
大本命視されていたMGCは、最終盤に3位に後退し、わずか5秒差で即内定を勝ち取ることができなかったが、昨年の東京マラソンで2時間5分29秒と再び日本記録を更新し、東京オリンピック代表の座を射止めた。
低迷した日本男子マラソン界を盛り上げてきた
低迷していた日本男子マラソン界が、この4年で一気に活気付いたのも、大迫のマラソン挑戦がきっかけとなったと言っても過言ではない。