猛牛のささやきBACK NUMBER
《侍ジャパン》室伏広治から教わった「一投一念」…“マッチョマン”吉田正尚が16年秋に送った「便箋にびっしり直筆の手紙」とは?
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byJIJI PRESS
posted2021/08/04 11:01
アメリカ戦で先制点となるタイムリーを放った吉田正尚。シーズンの好調をそのまま侍ジャパンでも発揮している
吉田は、「送ってよかったなーって。ただ思うだけでは何も起きないので、しっかり行動に移せたのはよかったです。今思えば、よく書いたなーと思いますけど」と笑っていた。
吉田のまっすぐな思いに、室伏氏は心を動かされたという。
「直筆で、便箋にびっしりと、本当に一生懸命書いてくれて。熱意が伝わる内容でしたし、野球に対してものすごく真剣だということがうかがえました」
2017年の1月に初めて指導を受け、筋力だけでなく体全体のバランスや、安定性を高めるトレーニングを行なった。
その時、室伏氏はこんな期待を口にしていた。
「まずは年間を通して、安定して成績を残していくということが今年は大事なのかなと思いますが、将来は、球界を代表する、日本を代表するような素晴らしい選手になってもらいたい。個人的には、オリンピックに出てもらいたいなと思っています」
4年後、吉田は師匠の期待に応えた。
ベッドに飾った「一投一念」
東京五輪の日本代表に選出され、室伏氏に報告すると、「よかったな。何かあったら相談してね」と言われたという。
「室伏さんはお忙しいので、負担はかけられない。いい姿を見せたいなと思います。誰もが立てる場所ではないですし、大きな舞台なので、そこで活躍して、恩返しができたらと思います」
そう決意を語っていた。
吉田には大切にしている色紙がある。初めて室伏氏に指導を受けた際、「サインをください」とお願いした。野球選手も含めて、誰かにサインをねだったのは初めてのことだった。
室伏氏は快くサインし、この言葉を添えた。
「一投一念」
その日、吉田はその色紙をベッドに飾って眠った。
「自分もやっぱり1球1球、大切に。1日1日、ただ単にやるんじゃなくて、高い意識を持ってやっていきたい」と語っていた。
東京五輪日本代表は3連勝で準決勝に進出し、8月4日、韓国と決勝進出をかけて戦う。
吉田は1打席1打席、日本の勝利のために自分の役割に徹する。師匠と同じ、世界一の景色を見るために。
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