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《男子ゴルフ》松山英樹、“特別な場所”でメダル届かず「ゴルフはメジャーが4つあって、恵まれているのかな」
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph byShizuka Minami
posted2021/08/02 06:00
銅メダルを懸けた7名によるプレーオフで敗れた松山英樹。体調が万全ではない中で、最後まで戦い抜いた
あんなにも、もがき苦しみながらプレーする松山の姿を間近で見たのは初めてだった。常に崇高な理想を抱き、高い向上心を抱き、ストイックに練習と準備を重ねてから戦いに挑むはずの松山が、霞ヶ関では自身の理想形からはほど遠いと感じながら、なりふり構わず必死にプレーしていることが、蒸し暑い空気を介して日に日に伝わってきた。
7月上旬の米ツアー大会、ロケット・モルゲージ・クラシックの初日後にコロナ陽性の判定を受け、即座に棄権、10日間以上の自主隔離、そして陰性に転じて大急ぎで帰国。体調もゴルフの感覚も戻し切れないまま突入した五輪で、松山は試行錯誤と四苦八苦を続けながら、最大限の努力を惜しまなかった。
とめどなく噴き出す汗は、すべてアドレナリンでできているのではないか。そう思えるほど、彼は必死だった。
その必死さは、新たな何かが誕生する前の産みの苦しみであり、変化の予兆なのではないだろうか。松山は変わろうとしている。変わりかけている。そう確信できたからこそ、彼の変化の正体を早く見たいし知りたい一心で、最終日の朝、ハンドルを握る私の手には知らぬ間に力が入った。
初日を終えた後も練習場へ
霞ヶ関で選手の練習が解禁になった前週土曜日の24日、松山はいち早くコースに姿を現わしたが、ラウンドはせず、ショットと小技、パット練習に4時間ほどを費やした。
早くコースに出たい、コースの状態を見たいという衝動を抑え、調整に精を出していた姿は、すでに彼の我慢の戦いが始まっていることを物語っていた。
翌日からは、まだコロナ感染の影響で体力が低下していたにも関わらず、猛暑の中で精力的に練習ラウンドと打撃練習、チップ&パット練習を続け、丸山茂樹ヘッドコーチも「少し体力温存したらって声をかけようと思う」と、松山の体調を気遣っていた。
いざ挑んだ初日は、失速した後半を悔やみ、「うまくできなかった」と唇を噛んだ。だが、悔やんでいるよりできることをやると言わんばかりに、松山は練習場へ向かった。
2日目はスコアをぐんぐん伸ばし、リーダーボードを駆け上がった。とはいえ、目を見張るようなスイングでスーパーショットを打ち放ったわけではなく、テークバックの途中でスイングを止め、仕切り直しすることが後半6ホールで3度もあった。
それは、自分自身の本来のフィーリングが取り戻せないまま、なんとかボールを運んでいた姿であり、もがき苦しみながらも、今できる最大限の努力で最善を尽くしていることが伝わってきた。