スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
《卓球》元相棒の本音「悔しいけど、美誠は水谷さんと組んだ方がいい」なぜ伊藤美誠20歳と水谷隼32歳は相性抜群なのか
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byJIJI PRESS
posted2021/07/28 17:30
混合ダブルス決勝で中国の許昕・劉詩雯組を破った水谷隼・伊藤美誠組。試合後のハグも話題になった
中国の剣術vs.伊藤美誠の「居合い」
水谷・伊藤組は退くことなく、対決姿勢を明確にする。卓球台に対して下がり気味で相手に合わせていた感じだったが、第3ゲームに入って台に近寄ってのプレーが増え、攻めの姿勢に転じたのだ。
中国の遠心力を生かした豪快な剣術に対し、間合いを縮め、「居合い」で勝負に出た。私にはそう見えた。
その戦術は、伊藤美誠にしか出来ないものだ。
伊藤は異能の人である。
そのプレースタイルは独創的で、今大会の準決勝でも台湾ペアのサーブに対し、誰しもバックでの返球が妥当という場面で、いきなりフォアを繰り出す。
最近はあまり使われなくなったが、「美誠パンチ」と呼ばれるほとんどバックスイングを取らず、払うようなスマッシュを繰り出す。この打球に対して、相手はタイミングも、球質にも対応できない。
元相棒「悔しいけど、美誠は水谷さんと組んだ方が…」
ただし、困惑するのは相手ばかりではない。ダブルスでは味方までもが戸惑ってしまうのだ。
「中日スポーツ」に、かつて混合ダブルスで伊藤と組んだ経験を持つ森薗政崇が「悔しいけど、美誠は水谷さんと組んだ方が威力を発揮する」と真情を吐露し、興味深いコメントをしていた。
「美誠の魅力は男子顔負けの多彩な攻撃力。型にはまらない発想力がその神髄。僕はその攻撃の全てに対応できなかったので、美誠のプレーを制限していた。どんな球でも打ち返せる水谷さんの対応力は世界随一。2人なら中国を倒せるかもしれない」
この言葉には、いろいろなことを考えさせられる。
ダブルスは、相手に慣れると同時に、パートナーのスタイルを受け入れなければならない。
たとえば、伊藤が美誠パンチを出し、相手がギリギリそれに対応したとする。守勢の相手から返ってくるのは、ナックル気味のボールで、パートナーは処理が難しい。つまり、伊藤の攻めによって、味方もリスクを負ってしまう。
伊藤の剣は、諸刃の剣なのだ。