「あの時は、サッカーでいろんなことをもう十分得たなと思ったので、やめる決断に踏み切れたんですけど、振り返って考えてみると、それを簡単に捨ててはいけなかった」

　レイソル時代、染谷選手は副将で、主将は古賀太陽だった。古賀は、今や柏レイソルの不動の左サイドバックで、東京五輪代表候補にまで選ばれた。古賀がそこまで成長し、他の同世代の選手がスポットライトを浴びた姿を見ると、なおのこと後悔の想いが強くなったという。

「プロサッカーは注目度も高いし、華やかな世界ですよね。そういうのをユースで経験してきて、引いたところで今見ているとよりその凄さがよくわかります。自分が目指そうとしていた世界は、すごいところだったんだなって。

　分からないですけど、自分も続けていれば太陽のレベルにまで到達できたのかなぁとも考えますし、太陽や冨安（健洋）、堂安（律）とかが活躍する姿を見せられてしまうと、彼らとともに高いレベルでサッカーをやることの面白さ、その世界でプレーするのが自分にとっていかに大事だったのか、改めて気づかされました」

将来は研究職も「今やらないといけないのはサッカー」

　染谷選手の言葉からはサッカーへの想いを断ち切れず、むしろ今以上の高いレベルに挑戦をしたい、そんな意欲が感じられる。卒業後は大学院に進学予定だが、もう一度、サッカーで上を目指す意欲があるのだろうか。

「サッカーは、正直もうちょっと続けたいと思っています。ちゃんとしたトレーニングを積めていないので身体との相談ですけど……。ただ、やるからには上のレベルでやって、現役を終わりたいですね。研究や勉強は社会に出てからもできますが、今やらないといけないのはサッカーかなって。自分がサッカーをやれば、話題性ありますよね（笑）」

　もう挑戦を決めているかのように、明るい笑顔を見せた。

オンラインでの取材に応じてくれた染谷選手

　GKは、息の長いポジションだ。プロでも長い下積み生活を経てレギュラーを取る選手が多い。柏レイソルユースから東大を挟み、プロサッカー選手へ。実現すれば2011年卒業後、ファジアーノ岡山に入団して東大初のJリーガーとなった久木田紳吾さん、2015年卒業後、藤枝MYFCに入団した添田隆司さんに次いでア式3人目の快挙になる。

　染谷選手がどんな決断を下すのか。一度、捨てたものを取り返せることを証明するのは、東大生というブランドに関係なく、刺激的でかっこいい生き方であるし、同じ悩みを持つ人たちにとっては大きな勇気となるだろう。

(【初回を読む】「本当にサッカーが好きなんだと」異例の監督就任から半年…34歳元Jリーガー林陵平が明かす“東大サッカー部の今”へ)

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