Number Web MoreBACK NUMBER
《競泳・金メダル》大橋悠依は2年前の夏「生活するのもしんどくなるくらいでした」… 苦しみから救ったスタッフのひと言とは
text by
田坂友暁Tomoaki Tasaka
photograph byHiroyuki Nakamura
posted2021/07/25 11:50
2019年の世界水泳で大橋悠依のメダルは1つに終わったが、それ以上に精神面で得るものは大きかったようだ。
大橋を救ったスタッフのひと言。
そんな大橋を、代表チームを長く支えてきたスタッフがかけた、あるひと言が救う。
「自分の頑張りに失礼がないように、頑張りをムダにしないようなレースをしないと、もったいないよ」
いったい自分は何のために水泳をやっていたのだろう。誰のために水泳をやっていたのだろう。
みんなの期待に応えることは大切かもしれない。でも泳ぐのは自分であり、結果を出すのも自分。それならば、周囲の期待がどうこうではなく、自分は頑張ってきたという自負があるなら、それをただ出し切れば良い。目から鱗の言葉に、大橋の目が覚めた。
自分に打ち克って掴んだメダル。
400m個人メドレーの予選、4分37秒23の2位で決勝に進んだ大橋は「思ったよりも前半から身体が動きましたし、とにかく自分を信じる、といっても簡単じゃないですけど、今やれることを全部出して、出し切ったと言えるレースがしたい」と、今までの心情が嘘のように晴れやかな表情で答えた。
運命の決勝レース。前半から世界女王のカティンカ・ホッスー(ハンガリー)に食らいつく。泳ぎは、いつもの大橋に比べるとキックに力が入っており、軽いバタフライではない。
背泳ぎに入ってもホッスーと並んだままだ。平泳ぎに入ると、少しホッスーから離れてしまい、後ろからはロンドン五輪の金メダリスト、葉詩文(中国)が迫ってくる。
それでも大橋は焦らず、自分の力を出し切ることに専念。最後の自由形は、男子キャプテンの瀬戸大也から「脚がもげてもいいからキックを打て」と言われた言葉を守り、とにかくキックを打ち続けた。
惜しくも最後の15mで葉にかわされてしまったが、4分32秒33の今シーズン最速タイムで銅メダルを獲得したのである。