「そう言ったら、先輩のスカウトに怒られました。ピッチャーゴロも追わないようなピッチャー、バックが本気で守ってくれるわけないだろ…って」

　と、こちらも苦笑いだ。

　確かに、ちょっとジャンプすれば捕れそうな高いバウンドを見送って、際どいタイミングの二塁ゴロに持ち込まれた場面があった。

「最近は、プロの投手も“好青年”が増えて、見るからにふてぶてしい投手もいなくなったけど、昔は、エース級でそういうタイプ、結構いましたよね。石戸さんとか……」

　サンケイ（現・ヤクルト）アトムズ・石戸四六投手。たいへんなお酒呑みだったそうで、丸いお腹のサイドハンドからシュートを沈めたり、胸元を突いたり。王さん、長嶋さんの頃の巨人キラーで、1968年には「20勝投手」にもなっている。

「50年前とは、プロ野球も変わっている。昔は一匹狼が当たり前でも、今はふてぶてしさが誤解されて、チームで浮き上がってしまうこともある。それでも、やっぱり、実力で周囲を納得させるのがこの世界なのは、変わってないですからね。意外とこういうのが、頼もしい味方になったりするんですよ。僕は好きですけどね、こういう“結果”を突きつけられるヤツ」

【投手編3】「西日本の社会人No.1左腕」三菱重工West・森翔平投手（23歳）

　大卒2年目の左右の快腕を有する三菱重工West。3日の第3試合に、JR四国と対戦した。この日13時からは、大阪桐蔭高と高知高の練習試合があり、高知高のドラフト1位候補・森木大智投手が強敵相手にどんな投げっぷりを見せるか……そこを確認した50人近いスカウトたちの多くが、奈良・大阪県境の球場から遠路、「ほっともっと神戸」に移動するという現象が起こった。 

　どちらも、それほどに見届けたい「候補たち」だったのだろう。先発した三菱重工West・森翔平投手（24歳・177cm77kg・左左・関西大）といえば、4年秋の明治神宮大会で、金沢学院大を8回13奪三振無失点に抑えたあと、決勝戦では、慶應義塾大を初回の2ラン以降をピシャリと抑え、8回にも追加点を許したものの、一歩も退かぬ負けん気の快投を鮮明に覚えている。

　当然、社会人1年目からエース格で投げてのドラフトイヤーだ。

「そうでしょう、そうなんですよ！ あれ見ちゃってるから、そのあとの印象がどうしても薄くなる。あの時は147、8km、バンバン出てて、スライダーが左打者の外いっぱいにきまってね。でも、悪くないんですよ、今日だって、ぜんぜん。ほとんどノンパワーで投げてるように見えて、ここのガンで142、3kmだから、実際は140後半出てるでしょ。右打者の外にカーブきめておいて、次のクロスファイアーで膝元にきちっとラインが作れる。ただねぇ……立ち上がりで球道がブレやすくて、6回投げて1奪三振ですか。正直、今日の相手なら、前半の5回で10個近く三振とるかと思ってた。東のことはよくわからないけど、それでも、西日本の社会人No.1左腕なのは間違いない」

　はっきりした目的があって見ていたというスカウトは、こんな話をしてくれた。

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