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厳しすぎるリハビリを乗り越えて…長嶋茂雄が東京五輪にどうしても“参加”したかった理由《開会式・聖火ランナー》
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byGetty Images
posted2021/07/24 12:30
東京五輪開会式に聖火ランナーとして登場した、プロ野球界のレジェンド(左から)王貞治、長嶋茂雄、松井秀喜各氏
月刊『文藝春秋』8月号の取材で、そのことを長嶋さんに聞いたのは6月のことだった。
19年に体調を崩して、表舞台にはあまり登場しなくなっていたが、今年は久々に巨人の開幕戦を東京ドームで観戦し、その後はファーム落ちした丸佳浩外野手を「励ましたい」と二軍のジャイアンツ球場を訪問。長嶋さんが再び精力的に動き出した矢先のことだった。
アスリートたちにエールを送る
「新型コロナウイルスは、世界中の政治や経済を混乱に陥れてきました。そして、このたびは我々の夢と希望である東京オリンピック・パラリンピックを前例のない、新しい様式へと変化させようとしています」
文書のやりとりで行った取材で、長嶋さんが最も心配していたのは、コロナ禍の中での開催と、その開催を巡ってさまざまな論議がある中で参加するアスリートたちのことだった。
だから真っ先に語ったことはそうしたアスリートたちにエールを送ることだったのである。
「出場するアスリートの皆さんには、この混乱に動じることなく、日頃の成果を思う存分、出し切って欲しいと思っています。日の丸を背負っているという誇りを忘れずに、大会までの残されたわずかな日々を競技活動に打ち込んで欲しいと願うばかりです」
開会式直前までゴタゴタが続き、五輪のそのものの意義が問われる大会ともなったが、そうしたさまざまな論議がある中でも、スポーツの持つ力をミスターは信じ、いまこの状況下で五輪を行う意味をこう語っていた。
「スポーツには人間を感動させる力がある」
「今回の東京オリンピック・パラリンピックは前例のない厳しい環境の中での開催となります。しかし野球ばかりではなく参加するすべてのアスリートの皆さん、観戦する我々も忘れてはならないのは、スポーツには人間を感動させる力があるということです。そしてスポーツの使命は、その感動を分かち合うことなのです。
すべてのアスリートの皆さんが、この晴れの舞台で思う存分に躍動されることを願っております」
そんな思いを胸に迎えた開会式だったのである。