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伝説の“阿部一二三vs.丸山城志郎”でも使用されたのに…東京五輪の柔道で日本製「世界一動かない畳」が採用されないのはナゼ?

posted2021/07/25 11:01

 
伝説の“阿部一二三vs.丸山城志郎”でも使用されたのに…東京五輪の柔道で日本製「世界一動かない畳」が採用されないのはナゼ?<Number Web> photograph by KYODO

世界有数の武道具メーカー「株式会社九櫻」が作る最高峰の畳「SV230I」

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熊崎敬

熊崎敬Takashi Kumazaki

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KYODO

『Sports Graphic Number』で好評連載中の「スポーツまるごとHOWマッチ」を特別に公開します! <初出:1024号(2021年4月1日発売)、肩書きなど全て当時>

「アスリート・ファースト」を掲げるオリンピック。当然、最良のパフォーマンスには最良の環境が欠かせないが、かけ声倒れが目につくのが実情だ。残念ながら日本のお家芸、柔道も例外ではない。

 1918年創業。野良着の製造から始まった、世界有数の武道具メーカー「株式会社九櫻」は、最高峰の畳「SV230I」を製造する。もちろん国際柔道連盟と全日本柔道連盟の公認畳だが、東京五輪で陽の目を見ることはない。

 製造担当者が残念そうに語る。

「当社を含めた日本の畳は機能性重視。それがコスト最優先で大量生産される、海外製の畳に負けてしまうわけですよ」

 SV230Iは、1枚100×200cmで税抜き4万8000円。海外製に比べて値は張るが、それは安全性を担保する工夫が施されているからだ。

 例えば海外製は畳表を糊で貼りつけているが、日本製は丈夫な糸で縫いつけている。大量生産には前者が向いているが、それをしないのには次のような理由がある。

「畳は生き物。畳表を糊づけすると呼吸ができず、高温多湿の夏場に膨張し、反対に乾燥した冬場には縮んでしまうわけです」

阿部一二三と丸山城志郎による代表決定戦でも採用

 畳が縮むと、畳の間に微妙な隙間ができ、そこに足の指をはさんで傷めてしまう恐れがある。糸で縫うことで収縮が抑えられ、ケガのリスクが低減されるわけだ。

 また畳には、柔道の競技特性から「動く」という長年の悩みがあった。鍛え抜かれた競技者が技を掛け合い、投げを打つたびに畳は衝撃で微妙に動き、隙間が生まれる。

「柔道畳は動かないことが大前提。しかし先生方から動く動くと言われて、試行錯誤を繰り返しました。畳に穴を開け、ワイヤーでつなごうとしたこともあります」

 苦労の甲斐あって、九櫻の畳は“世界一動かない畳”と呼ばれるまでになった。全力で蹴飛ばしてもびくともしないのは、畳の底に張られた“ノンスリップシート”のおかげ。
「多くのメーカーが工夫していますが、ウチのがいちばん動かないので、国体でももっとも使われています。阿部一二三と丸山城志郎が対戦した、代表決定戦でも採用されました」

 担当者は胸を張るが、五輪で使用されるのは中国畳。サンプルを見ると畳表は糊づけ、日本製では常識となっている衝撃を拡散する層もない。柔道発祥の国で培われた畳の技術。それを世界の柔道家に体感してもらえないのは、きわめて残念なことだ。

20年目の原巨人

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