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不屈のデンマークが示した“勝ち”を超えた“価値” 支え合いの精神を育む14歳まで選別しない育て方
posted2021/07/13 17:00
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph by
Getty Images
EURO2020準決勝。イングランドは決勝進出を勝ち取り、デンマークはサッカーファンのハートを勝ち取った。今回の彼らの奮闘ぶりは、そう表現してもいいのではないだろうか。
今大会のデンマークは、あまりに過酷な運命と向き合わなければならなかった。初戦のフィンランド戦で、MFクリスティアン・エリクセンが突如心停止を起こして倒れたのは、痛ましい記憶として刻まれている。
キアルはエリクセンの恋人をシュマイケルと励まし続けた
生中継中に起きた悲劇。最悪の事態が頭をよぎる。
幸い、エリクセンは生還してくれた。チームドクターによる迅速な救命措置のおかげもあり、一命はとりとめたとの報が流れてきたときは、それぞれがそれぞれの信じるものに感謝を捧げたことだろう。
と同時に、僕ら人間は無力かもしれないが、何もできないわけではないということを、改めて思い知ったのではないだろうか。
キャプテンのシモン・キアルは、倒れたエリクセンを好奇の目から守るため仲間たちと壁を作り、絶望に暮れるエリクセンの恋人をGKカスパー・シュマイケルと励まし続けた。フィンランドファンが「クリスティアン」と叫び、デンマークファンが「エリクセン」とレスポンスする応援コールがスタジアムに何度も何度も飛び交った。
世界中の選手とファンが、回復を祈り続けた。思いは、願いは、祈りは、力になる。
デンマークは再開されたフィンランド戦を落とし、2戦目でベルギーにも敗れた。だが試合は残されている。状況は、苦しいなんてもんじゃない。全敗で大会を去ったとしても、誰も責めたりはしなかっただろう。しかし、彼らは決して諦めたりはしなかった。
「クリスティアンのために」
そんな合言葉が大きな原動力となった。大事な仲間のために、最後まで戦い抜くことを誓い合った。
みんなが称賛するユルマン監督の人間性
ロシアに4-1で勝利した彼らが決勝トーナメントに進み、さらにウェールズに4-0、チェコに2-1で勝利して準決勝進出を果たすなんて、誰が予想しただろうか。
がむしゃらにプレーするだけでは試合に勝てない。そうした点で、カスパー・ユルマン監督の手腕は特筆に値する。キャプテンのキアルは次のように語っていた。
「監督はもう、尋常ではなくすごい。素晴らしい監督で、どんなときもサッカーのことを考えている。同時に、それ以上の存在だということをいま示してくれている。彼が僕らの監督であることを誇りに思うし、感謝している」