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不屈のデンマークが示した“勝ち”を超えた“価値” 支え合いの精神を育む14歳まで選別しない育て方
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/07/13 17:00
イングランドに敗れベスト4に終わったデンマーク。しかしその不屈の姿勢は世界中から称賛された
イングランドの決勝点となったPKが微妙な判定だったことへ恨み節がないわけではない。それでも、ユルマン監督は誇り高い姿を見せてくれた。
「僕らは戦い抜いた。いいサッカーを披露した。デンマークに、すべての国民の人たちに感謝している。クリスティアンにああしたことが起きたとき、僕らはみんなからの支えが、共感が必要だった。そして、どれだけみんなからの愛と支えに助けられたか。素晴らしい気持ちでいっぱいだった。残念ながら決勝には進めなかった。でも、ここからまた僕らは走っていけると確信している。僕らの未来には多くの希望が待っているはずだから」
みんなでサッカーを楽しもうという環境作り
デンマークの未来は明るい。若い世代がどんどん台頭してきている。その1つの理由に、デンマークサッカー協会が掲げる新しいサッカーフィロソフィーがある。
「サッカーは誰でもプレーができる!」
そんなスローガンだ。
少年・少女サッカー責任者のイェスパー・ヤコブセン(37歳)が中心となって作り上げたプロジェクトである。人口580万人。現在、サッカー協会の登録選手数が約31万人というデンマークでは「14歳までは、どのクラブでも才能の有無にかかわらず、試合でプレーをすることができる」ようにしている。
「14歳までは、それぞれのクラブではファースト、セカンドチームという区分けを廃止にしています。子供たちはみんな一緒にトレーニングをして、試合をするんです」
上手い選手、そこまでではない選手と線引きせず、みんなでサッカーを楽しもうという環境作り。そうした方針が裾野を広げ、そのなかで優れた選手がさらに成長できるというサイクルを作り出すことができるという。
今大会、デンマーク代表はサッカーの魅力を余すことなく伝えてくれたと思う。
モニターの向こうで誇らしげに国歌を歌い、チーム一丸で戦うことを誓い合い、ピッチ上で全力のプレーを見せてくれたチームに、数多くの子供たちが興奮したことだろう。
きっと次の練習日には「憧れの選手みたいにプレーがしたい」「あんなふうに勇敢に、果敢にプレーがしたい」と、弾かれたようにグラウンドへ駆け出していくはずだ。
デンマークでは、そんな彼らが追い返されることのないシステムが築かれつつある。“勝ち”を超えたスポーツが持つ“価値”。
ヤコブセンは象徴的な言葉を残している。
「私にとっては、代表が大きな成果をあげるかどうかは重要ではないんです。サッカーをプレーしている15万人の子供たちが、大人になってもサッカーを続けてプレーしてくれる。そんな状況に到達したいだけなんです。だって、みんなサッカーが大好きで、サッカーを楽しんでいるんですから」