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不屈のデンマークが示した“勝ち”を超えた“価値” 支え合いの精神を育む14歳まで選別しない育て方
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/07/13 17:00
イングランドに敗れベスト4に終わったデンマーク。しかしその不屈の姿勢は世界中から称賛された
昨年8月から代表を指揮するユルマン監督は、落ち着きを忘れず、的確な戦術を見つけ出し、明確なプレーイメージを選手に伝えることができる。
例えば、決勝トーナメント1回戦のウェールズ戦では、CBのアンドレアス・クリステンセンを試合途中に守備的MFのポジションに移し、全体のバランスを整えることに成功した。ミケル・ダムスゴールをエリクセンの代役にすえるのもはまった。ダムスゴールは攻撃にリズムをもたらし、準決勝のイングランド戦では見事なFKで先制点をもたらした。
また、選手とのコミュニケーションを大切にし、丁寧にチーム作りをするユルマン監督の人間性を、みんなが称賛している。
DFヨアキム・メーレは「僕にとっては、本当に素晴らしい監督であると同時に友人でもあるんだ」と話していたことがある。
もちろん、完璧な人間なんていない。試合中に自分の選手が倒れて平常心を保ち続けることなんてできない。ユルマン監督も、そうだった。そして、自身の思いに正直だった。
選手も、コーチも、スタッフも、国民も一丸となった
メーレは「彼自身も助けが必要だったんだ」と明かしている。悲しいし、腹立たしいし、不安にもなる。感情を抑えきれずに、自分の内面をさらけ出す1人の人間ユルマンがそこにいた。でも、それは弱さではない。自分が、自分たちがまた歩き出すために大切なプロセスだったに違いない。
「僕らは、素晴らしいサッカー選手で、素晴らしい仲間で、素晴らしい人間を失いそうになったんだ」
ユルマン監督は、エリクセンの一件をそう話していた。心からの言葉が胸に染み入る。だからこそ、みんなで支え合おうという空気が広がる。選手も、コーチも、スタッフも、そしてデンマーク国民も一丸となった。
「僕らは一つのチームだよ。僕1人でやったことじゃない。素晴らしいチームだったから成し得ることができたんだ。お互いに支え合いながら乗り越えてきた」
ユルマン監督は、各方面からの賛辞を恥ずかしがりながら受け止めている。
イングランドとの準決勝で力尽きたデンマークだが、その奮闘ぶりに世界中のサッカーファンが拍手を送っているはずだ。
最終的には延長戦の末に1-2で敗れたわけだが、1点を追う延長後半にはマティアス・イェンセンが負傷退場せざるを得なくなってしまった。
交代枠をすべて使い切っていたため、1人少ない状況で最後まで戦わなければならない。1点リードを守ろうとするイングランドは無理せずパスを回して、時間を消費していく。そんな絶望的状況でも、デンマークの選手たちは最後まで足を止めずに走り続けた。