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「ショウタイム」と「デグロミネーター」。“飛ぶボール”時代の超人ふたりがメジャーの歴史を塗り替える
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2021/07/03 11:01
6月26日のフィリーズ戦の登板で「6回2失点」が話題になったデグロム。それまで31イニング連続無失点だった
グッデンの前後には、81年のノーラン・ライアン(アストロズ。1.69)、94年と95年のグレッグ・マダックス(ブレーヴス。1.56と1.63)というスーパースターもいる。少し下ると、2000年のペドロ・マルティネス(レッドソックス。1.74)。
ただ、イメージや投球スタイルからいって、デグロムと比較したいのは、やはりギブソンとグッデンだ(同じ剛球派として連想されるジョン・スモルツやロイ・ハラデイは、先発投手としては1点台の防御率を残していない)。
ためしに、開幕後13試合の彼らの成績を、デグロムと比較してみよう。
冒頭に述べたとおり、デグロムは78回を投げて防御率が0.69だ。
ギブソンは、115回3分の2を投げて1.42の成績だった。グッデンは、102回3分の1で1.67(ちなみにレナードは、84回3分の1で0.85)。
しかし、ギブソンとグッデンは、シーズン後半に一段とギアを上げた。
ギブソンはこのあと21試合に先発し、189回を投げて0.95の防御率を残した。その結果が、シーズン全体では22勝9敗、防御率1.12という成績だ。
グッデンも尻上がりの好投を見せた。残り22試合で174回3分の1を投げて防御率1.45。シーズン全体では24勝4敗、防御率1.53。
偉業達成への課題
では、デグロムがギブソンの記録を更新するには、残り試合をどんなレヴェルで投げ抜けばよいのか。
先にも述べたとおり、今季のデグロムは、1試合平均6イニングスを投げている。年間30試合に先発するとすれば、残りは17試合(102イニングス)という計算になる。投球回数のトータルは180イニングス。
この回数で1.12の防御率を残すには、年間の自責点を22点に抑える必要がある。開幕13試合までの自責点が6だから、残りは16。つまり、後半の17試合で、自責点を16以内に抑えれば、デグロムは驚くべき金字塔を打ち立てられるのだ。
どうだろうか。
前半の好調が維持できれば、悠々と到達できそうな目標値と思えるが、予期せぬ怪我や心理的不調の波に襲われた場合は、一気に防御率が悪化するケースも考えられる。
33歳という年齢(ダルビッシュ有と齢が近い)からいって、メンタル面は大丈夫と思うが、怖いのはやはり怪我だ。「新・投手の年」を象徴する剛腕だけに、ここはなんとか踏ん張り、球史に燦然と輝く記録に挑んでもらいたいものだ。