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失速した新谷仁美を奮い立たせた“廣中璃梨佳、田中希実らの存在”「途中で諦めることがどれほど失礼なことか」
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byAFLO
posted2021/06/28 17:20
日本選手権の女子5000m決勝は、廣中璃梨佳が優勝、2位が新谷仁美、3位が田中希実だった
「積極的に行けるようになったのは、気持ちの面を変えたのが大きいです。レースで、大丈夫かなって思うことは誰しもあると思うんですけど、そういうのを取り払って自分がやってきたことを信じて、積極的に走る。それが周囲の方が望んでいる私らしい走りなのかなって思えたことが、一番大きかったかなと思います」
今回、残り2000mを切ってからも「自分らしさを最後まで貫く」という決意とともに前でレースを引っ張った。廣中は、積極的なスタイルでレースを締め括ろうとしていた。
レース直前「棄権」、レース中「諦め」と戦い続けた
その頃、新谷は、廣中の後方にいた。
昨年12月の日本選手権10000mでは、渋井陽子が持っていた日本記録を18年ぶりに更新する30分20秒44で優勝。10000mの五輪代表に内定した時の圧倒的な走りとは異なり、状況を見つつ、順位をキープするような走りだった。
3000mを越えると新谷はそれまで4番手を走っていた田中に追いつかれ、抜かされた。その時、新谷は一瞬、「諦めよう」と思いかけたという。
「希実ちゃんが、1500mと800mをやって、このレース寸前まで800mを走っているのに、私は、5000m1本だけ。ここで諦めるのは彼女に失礼なんじゃないかって思ったんです。それに廣中さん、萩谷さん、(佐藤)早也伽ちゃんがこの大会で標準記録を狙っているのに、途中で諦めることがどれほど失礼なことかと思って、そこから挽回したんです」
新谷は、弱気な自分を振り払って田中を抜き返し、2位をキープした。だが、走りにもうひとつ新谷らしい気迫が感じられない。実はレース前、何度も棄権しようと思い、横田真人コーチにも告げていたという。
「今年に入って、私はまったく結果が出ていなくて、その状況に焦りもありました。故障もなく、どこも悪くない状態だったので棄権する理由はまったくなかったんですけど、棄権しよう、と。そのくらい今回、追い込まれていたんです」
今シーズン、新谷は5月の「READY STEADY TOKYO」の1本しかレースに出ておらず、15分18秒21で5位と物足りないタイムに終わっている。ただ、練習はTWOLAPS TRACK CLUBで横田コーチとともにしっかり積めていたし、10000mでは、昨年に東京五輪内定を決めており、5000mも参加標準記録を切っている。今回3位以内に入れば、5000mでも五輪出場権を獲得できる。新谷の実力からすると焦る必要がなく、それほど難しいミッションではない。
何が新谷を追い詰めたのか?
いったい何が新谷を追い詰めたのだろうか。
「(追い込まれたのは)練習を積んでも身になっていないところが要因かなと思います。あと、日頃、自分の気持ちをコントロールができていないのが、今年に入ってから影響しているのかなと思うんですが、それをうまくコントロールするのが自分の役目。でも、うまく結果に繋げることができなくて、逃げ腰になって……」
今年は周辺環境が競技だけに集中できない状況にあり、気持ちをうまくコントロールできなかったことは容易に察することができる。