「試合ってやっぱり勝負事ですから。心を清めておきたいというのもあって、試合当日はいつも同じリズムで乗り込むようにはしています。ルーティンといいますか、アウェーのときも、必ずトレーニングをやって体調を整える。以前はホテルの周りを走ることが多かったですが、最近は年を重ねたこともあって重力が少しでも和らぐプールで泳いでね（笑）。

　僕もかつては代表のピッチで戦わせてもらいましたし、もし自分が中継する試合の勝率が悪いなんて言われたら嫌ですから。とくに、僕の場合はまだ日本代表が勝てなかった時代を知っているので、余計にそうなのかもしれないですが……」

　そんな松木さんにとって解説者として忘れられない一戦を挙げれば、日本がW杯に初出場した98年フランスW杯初戦のアルゼンチン戦になるという。

日本が初出場した98年フランスW杯。初戦のアルゼンチン戦、松木さんにとっても忘れられない一戦だという　©Getty Images

「すべての試合が印象に残っていますが、1つ挙げろと言われたらやっぱりアルゼンチン戦でしょうね。選手たちがピッチで君が代を熱唱している場面を見たときは、ついにここまで来たかと、僕も鳥肌が立ちました。

　先日、ゴルフの松山英樹選手が全米オープンで優勝されたときの涙ではないですが、日本サッカーの歴史を知っている僕にとってはそれ以上のものがあったというか。

　結果は1点差負けで、健闘したという評価があった一方で、世界との大きな差を目の当たりにした気持ちでした。その後日本代表は何度もW杯に出るようになりますが、その始まりがあのアルゼンチン戦だったわけですから、解説者として直に携われたことには感慨深さがありますね」

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©Shigeki Yamamoto