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戦力外通告からの栄光…アゼルバイジャンGPで表彰台に上ったペレス、ベッテル、ガスリーそれぞれの、F1人生浪花節
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2021/06/11 17:00
苦労人ばかりが並んだアゼルバイジャンGPの表彰台。左から2位ベッテル、レッドブルの技術責任者ピエール・ワシェ、1位のペレス、3位のガスリー
「僕にとっては勝てなくて悔しいレースだったけど、チェコ(ペレスの愛称)が表彰台のトップに立っているのを見てとてもうれしい。今日の彼は、チームが求めていたことをすべてやってくれていたから。素晴らしいスタートを切り、それから僕たちと同じようにピットストップでルイス(・ハミルトン)の前に出た。彼はレースの大半でルイスからの攻撃に耐えてくれた。彼は本当にいい奴で、表彰台で彼の笑顔、レッドブルでの初勝利が見られたのは純粋にうれしい」
ペレスの人柄の良さはF1界ではよく知られている。18年に当時、所属していたフォース・インディア(のちのレーシング・ポイント。現在のアストンマーティンの前身)が経営危機に陥ったとき、チームのメンバー数人からの提案を受け、チームを救うために債権者のひとりとして立ち上がり、新しいオーナーを探すための法的手続きにかかわったのは有名な話だ。
だからこそ、そのチームのシートを昨年限りで追われることになったとき、多くのスタッフが涙した。それでもペレスは最後まで古巣に忠誠を誓い、12月のサヒールGPでは自身初、レーシング・ポイントにとっても初めてとなる優勝を果たした。
苦労人だからこそ紡げる言葉
今回の優勝でも、彼が発した言葉は感謝と敗者への気遣いにあふれていた。
「この素晴らしいチャンス、このシートを与えてくれたマテシッツ氏に感謝したい。マックス(・フェルスタッペン)は優勝して当然だったから、彼がリタイアしたのはとても残念。再スタートでは、ルイスがロックしてランオフエリアにまっすぐ行くのが見えた。僕たちがどれだけ限界ギリギリで戦っているのか、どれほどすさまじいスピードでレースしているのかがあらためてわかったと思う。ああいったことが起きるととても辛い。僕たちは誰でもミスをしてしまうんだ。ルイスのことを考えると心が痛むよ」
レースは人生に例えられることがある。今年のアゼルバイジャンGPは、3人のドライバーたちの人生が浮かび上がっていたように思う。