濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「お前なんかいらない? だからどうした!」 芸能界からレスラー挑戦のウナギ・サヤカがプロレスに“どハマり”するまで
posted2021/05/19 11:00
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
リングサイドで試合を撮影していると、選手のふとした一言を聞くことがある。観客へのアピールとは違う、限りなく“素”に近い声だ。
5月14日のスターダム後楽園ホール大会。スターライト・キッドを下した上谷沙弥は、思わず「あぶねー!」と漏らした。丸め込みの応酬を制してのギリギリの“先輩超え”だったのだが、危なかったのはそこだけではない。
この試合は団体恒例の「シンデレラ・トーナメント」準々決勝。オーバー・ザ・トップロープ=OTR(トップロープを超えて場外に転落すると負け)という特殊ルールを採用している。運も含めた勝負で新たなヒロインが生まれるから「シンデレラ」なのだ。
ジュリアは頭を鉄柱に叩きつけられながら…
4月10日の1回戦からOTRによる番狂わせが続出。上谷もワンダー・オブ・スターダム王者の中野たむを場外に落として勝ち上がった。逆にキッド戦では転落の大ピンチ。見ている側からすれば、どの試合も「あぶねー!」の連続だ。プロレスファンは全体に“声出しNG”の新型コロナウイルス感染防止マナーをよく守っているが、このトーナメントでは声にならない“どよめき”が何度も起こった。
3カウントを奪うことができなくても、OTRルールがあれば勝つチャンスは広がる。キャリアの浅い“格下”の選手ほど燃えるし策を練ってくるのだろう。舞華は昨年の女子プロレス大賞受賞者、日本武道館での髪切りマッチも話題となったジュリアに勝って準決勝に駒を進めた。
キャップの下にロングヘアのウィッグを着けてリングに上がったジュリア。試合前にキャップごと引っぺがす舞華……と謎のコント(?)からスタートしたこの試合。しかし結末はゾッとするようなものだった。
コーナー上から落とそうとするOTRの攻防。舞華がジュリアをブレーンバスターの体勢で抱え上げる。通常の雪崩式ブレーンバスターではない。投げる方向は場外だ。とてつもない落差。しかも投げる瞬間にバランスが崩れ、ジュリアは頭を鉄柱に叩きつけられながら落下していった。