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日本と正反対のイタリア “ワクチン事情” 着々と進む代表選手の接種に「優遇するな」の声が聞こえない理由
posted2021/05/18 11:00
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
Getty Images
サッカーのイタリア代表は、その大半がすでに抗コロナウイルスワクチンの接種を済ませている。EURO2021を控えるアッズーリの候補28人が、1回目の接種を受けたのは、5月3日だ。
国内のコロナ治療拠点の1つであるローマのスパッラザーニ病院に赴いた代表のエースFWチロ・インモービレは、ワクチン注射を終えた後の会見で、TVカメラに向かって語りかけた。
「(ワクチン接種の)先例となれたことを嬉しく、誇りに思います。ワクチンは私たち全員にとって重要です。必ず皆さんにも近いうちに行き届きます」
会見にはFIGC(イタリア・サッカー連盟)のガブリエレ・グラビーナ会長も同伴し、サッカー界と政府との共同歩調を強調した。インモービレは、いわば国策としてのワクチン接種推進キャンペーンの即席イメージキャラクターだった。
となると、“スポーツ選手ばかり優遇するな!”という批判の声が飛びそうなものだが、現在のイタリアで選手への個人攻撃らしきものはほとんど聞こえてこない。
市井へのワクチン接種の動きが想像以上に迅速だからだ。
妬みの声が聞こえない理由
イタリアのワクチン国内供給は、昨年12月末から始まった。接種プログラムは現場で治療に携わる医療従事者を皮切りに、重度の身体障害者や教育関係者、軍と警察機関所属の人間が優先された後、高齢者から年代順に施行されている。
州ごとの態勢に差異はあるが、筆者の住む人口4万人の地方都市でも、町のバスケットチームのホームコートである体育館が、イタリア陸軍の警備下で接種会場になり常時フル回転中だ。
疾患を持つ76歳のイタリア人義父は、すでに先月3日と30日に2回のワクチン接種を受けた。ファイザー社製だったらしい。
5月13日付の保健省発表によれば、国内の通算ワクチン接種数は、総人口6800万人に対し2500万回を超えた。全国的な重症者や入院患者の数は明らかな減少傾向にあり、陽性率は2.8%。ファイザー以下4社製品の他に、イタリア国産ワクチン「レイテラ」の開発も進んでおり、夏までには運用が始まる見込みだ。
17日からは、81年以前生まれの40歳代のワクチン予約受付が始まっている。自分の番は当分先だろうと、のんびり構えていたら、正直面食らった。これだけスピーディなら、誰かを妬む前にさっさと予約してしまおうという気になる。