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戦力外通告の筒香嘉智、「マイナーを選択」はプラスに働く? 天才肌ではない男の“牛歩”と37歳の松井秀喜が語っていたこと
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byJIJI PRESS
posted2021/05/14 17:01
レイズから事実上の戦力外通告を受けた筒香。他のチームから声がかからなければ、マイナーか日本かを選択することになる
筒香は決して天才肌の器用な選手ではない
そしてもう1つ、なぜ彼に「マイナーでも」と聞いたのか。その背景には彼のプレーヤーとしての成長曲線を思ったときに、マイナーでプレーすることが、逆にプラスに働く面もあるのではという思いがあったからだった。
筒香は決して天才肌の器用な選手ではない。
小学生の頃にピアノを習っていて、弾けない曲がいくつもあった。それでも諦めず苦手だった左手の演奏を中心に片手ずつ練習を繰り返して、最後は両手で弾きこなせるようになっていく。卒業式では全校生徒で歌う森山直太朗の「さくら」の伴奏をするまでになっていた。
野球も同じで子供の頃から1つ、1つの課題を克服していくことで、少しずつ成長をしてきた。そういう意味ではむしろ1つのことをやり遂げるのに時間がかかる不器用な選手で、それでも1歩ずつ階段を登っていく粘り強さが、筒香という野球選手の真骨頂でもある。
打撃を少しずつ進化させ、日本代表の4番に
プロになったDeNAでも期待されながら、本格的にブレークするまで5年を要した。その間には自分の目指す打撃ではなかなか結果が出ず、周囲の求めるバッティングとのギャップから、首脳陣とぶつかることもあった。
それでも目指してきた「ボールを引きつけて逆方向に打ち返す」という打撃を少しずつ進化させ、最終的にはモノにして、日本代表の4番を打つ選手にまで成長してきたのである。
その牛歩の如きあゆみは、米国に渡ってからも同じなのかもしれない。
「何とかなるという実感はあるんです」
これは今季を前に、筒香から聞いたメジャーの真っ直ぐへの手応えだった。
メジャー1年目の2020年シーズンに苦労したのは速球だった。確かに結果として、95マイル(153km)以上のボールに手こずってきたのも事実だ。それでも日々の打席で経験を積むことで、アプローチの方向性は少しずつ、つかみかけてきていたという。