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「いつか、傷だらけの背中でウェディングドレスを」 18歳の女子レスラー・鈴季すずが大流血を「嬉しい」と語る理由
posted2021/05/12 11:00
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
「勲章ですよ勲章。へへ」
身体じゅうにできた青アザを嬉しそうに見せてくれたのは“18歳の女の子”だった。
鈴季すず。女子プロレス団体アイスリボンの前シングル王者だ。今年1月にベルトを失ったが“身軽”になったところでデスマッチ/ハードコア路線(どちらも凶器使用可能な試合形式)にも進みたいとアピールした。そうして始まったのが〈鈴季すず・決意のハードコア七番勝負〉だった。
とりわけ話題になったのが3戦目、4月24日に行われた竹田誠志との対戦だった。クレイジー・キッドの異名を持つ竹田はすずに容赦のない攻撃を繰り出した。タッカー(建築用ホチキス)を額に打ち込み、特大のハサミを頭に突き立てる。すずはキャリア初の大流血。最後はハサミを押し付けながらのメガラバ(変形フェイスロック)でレフェリーストップとなった。七番勝負はすずの3連敗。
「18歳の女の子がやることじゃない」と炎上
この試合のレポートがニュースサイトに掲載されると、コメント欄には批判が多く書き込まれた。男子が女子を流血させる試合なんて見たくない、18歳の女の子がやることじゃないというわけだ。無視すればいいような言葉もあったはずだが、すずはすべて読んだという。ツイッターに届いた意見も。
「こういう試合はアイスリボンにはふさわしくないという人もいます。それは受け止めなくちゃいけない。でも相手の竹田選手まで卑怯だなんだと批判されたのが悔しくて……あぁ、涙出てきちゃった」
ネットが“荒れた”ことで、すずは今の自分が幸せなのだ、これがやりたかったことなのだとあらためてツイートしなければならなかった。試合数日後のインタビュー、すずは消える気配のないアザを見せて笑い、この嬉しさが理解されないことに泣いた。
今のプロレスでは男女対決は珍しくない。女子がデスマッチ/ハードコアに挑むこともある。10代の選手は他にもいる。しかしそのすべてが合わさると、異様なインパクトをもたらしてしまうのだろう。
「試合を見てもらえば分かると思うし、これまでの私を知ってもらえれば見る目も変わると思うんですけどねぇ。かわいそうって言われるのが一番嫌で」